【北京・赤間清広】中国の地方政府が、過去の統計データの「水増し」を相次ぎ「自白」しはじめた。中国の統計の信用度はかねて疑問視されてきたが、実態が浮き彫りになった形だ。統計の正確性を求める中央当局の追求に加え、習近平指導部の方針転換で、ひたすら数字を追い求めてきた地方政府の姿勢に変化が表れてきたとの見方もある。


 「内輪の問題を自白した」。中国国営新華社通信は今年1月、中国北部の内モンゴル自治区の党幹部が2016年の工業生産額の捏造(ねつぞう)を明かしたと報じた。工業生産を約4割、水増ししていたという。

 その1週間後、北京の東に位置する天津市の浜海新区も16年の域内総生産を公表済みの1兆元(約17兆円)から6654億元に下方修正した。過去の水増し分を修正した結果とみられる。

 中国審計署(日本の会計検査院に相当)が昨年12月に公表した報告書によると、雲南省や吉林省などの計10の県や市では約15.5億元の財政収入水増しが判明した。統計データの偽造は全国に拡大している。

 中国では長い間、高い経済成長の実現が重視されてきた。各地方政府は実績を誇示するため、統計データを日常的に粉飾してきたとされる。中央政府が公表する国内総生産(GDP)と、各地方政府がそれぞれ公表した域内総生産の合算値が毎年、数兆元単位で食い違っていることが何よりの証拠だ。

 ここにきて水増しの慣習が崩れつつある背景には、中央政府が偽装統計の取り締まりに本腰を入れ始めたことがある。

 国家統計局は昨年4月、統計データを監督する専門組織を新設。19年以降は地方の統計データ作成にも直接関わる方針で、過去のデータ水増しが判明するのは時間の問題だ。中央のメスが入る前に自らデータ修正に乗り出した格好だ。

 党幹部や地方官僚を取り巻く環境の変化もこの流れを後押しする。中国の習近平国家主席は昨年10月の中国共産党大会で、経済成長の「量」よりも「質」を重視する新方針を打ち出した。これまでは毎年の経済指標の内容が人事評価に大きな影響を与えてきたが、今後は新産業の育成や環境対策などが重視される可能性が高い。無理やり、数字を水増しする必要性が薄れてきたというわけだ。

 中国の17年の実質成長率は6.9%増と7年ぶりに前年実績を上回った。減速傾向が続いていた中国経済の再加速が数字で確認された形だが、統計データの信頼が揺らいだままでは中国経済の「実力」を客観的に判断するのが難しくなる。

 「我々にとっても(データ偽造は)大きな懸念事項であり、質の向上をはかっていく」。国家統計局の寧吉哲局長は17年成長率を発表した記者会見で統計偽造問題を追及され、釈明に追われた。世界第2位の経済大国は重い宿題を抱えている。

2018年2月21日 18時02分(最終更新 2月21日 18時05分)
毎日新聞
http://mainichi.jp/articles/20180222/k00/00m/030/043000c