使命感なくして「大勝負」はできず
技術者の矜持――西岡 喬(三菱重工業 相談役)
日経ビジネスマネジメント2008年12月17日(水)

私は毎週のように、三菱航空機の技術者たちに、こんな話をしています。
「MRJは決して国や会社の押しつけではないぞ。これが失敗すれば三菱重工にとって致命傷にもなりかねない。
開発が始まっても、誰も成功を確信しているわけではなく、採算分岐点に達するまでは茨の道だ。
それでも、三菱重工は戦闘機やミサイルやロケットでは世界一にはなれないけど、MRJで世界一になれるチャンスがある」とね。

 私は小型ビジネスジェット「MU-300」については現場の技術者として30年前の事業立ち上げから撤退までを担当しました。
これは1機3億円だったけど、1800億円もの赤字を出しました。悔しかったが、撤退せざるを得なかった。
当時からの友人に最近も、こう言われました。「日本の航空機事業をだめにしたのは三菱重工だ。
ジェット機の失敗で、日本では航空機はもうだめだという思いが広がったんだぞ」と。

MRJの販売予定価格は1機30億円ですから、単純計算すれば、1兆8000億円の赤字になりかねない。
もちろん、最悪の場合でも2000億〜3000億円ぐらいの赤字で止めますがね。
航空機というのはそれぐらいの損失が出かねない事業です。

 MRJには開発費が1500億円かかります。1機も売れないうちから、1500億円も必要なのです。
自動車も開発費がかかりますが、シェアが高いからといって、トヨタ自動車さんのクルマを全員が買うわけではないですよね。
三菱自動車を買う人もいます。ですから、クルマの場合は悪くても、最初の計画の70〜80%ぐらいは売れる。
しかし、航空機は全く売れないという恐れがある。三菱重工は新規参入組ですから、その厳しさはなおさらです。