◆こけしブーム 黒石・津軽こけし館は10年で売り上げ5倍/生産追いつかず「1年待ち」も

昨年10月21日朝。青森県黒石市の津軽こけし館は開館を待ちわびるこけしファン約120人の熱気に包まれていた。
先頭の男性は「一昨日から並んでいる」。

お目当ては30回目を迎えた全国伝統こけし工人フェスティバル。
東北各地から集まった工人28人の直売会だ。
来場者は販売開始と同時にお目当てのブースに駆け寄り、会場は数分でいっぱいになった。

こけしブームが続いている。
2010年ごろから第3次ブームが始まったとされ、4千本を所蔵する津軽こけし館はイベントのたびに全国から客が殺到。
こけしの通信販売は売り上げの伸びが著しい。

黒石市から指定管理を委託されたツガルサイコー(福士拓弥社長)が運営する同館は07年、全国的に知られた「純金・純銀こけし」を市の財政難のため手放した。
08年度の売り上げは落ち込み、約1千万円と前年に比べ半減したが、その後ブームの追い風もあり着実に回復。
17年度は売り上げが5千万円台に乗り、10年で5倍に拡大した。

同館の山田拓郎部長によると、ブームのきっかけは一冊の本。
10年4月に出版された「kokeshi book−伝統こけしのデザイン」(青幻舎)は、従来の学術的なこけしの解説本と違い、カラー写真をふんだんに使い、ポップなデザインでかわいらしく伝統こけしを紹介。
これが若い女性を引きつけた。

11年3月の東日本大震災後は、被災地の工人を支援しようという催しが数多くあり、東北の復興を応援しようという購入者も増えた。
会員制交流サイト(SNS)で気に入った品を紹介するファンが他人の購買意欲を刺激し、若い女性を中心にブームが拡大したというのだ。

全国工人フェスに訪れた大阪府のイラストレーター吉田美佐子さんは「ファン同士がSNSでつながり、誰の作品がいいとか、やりとりしている。
手作りで同じ物がないというのがこけしの最大の魅力」と話す。

現在はネット通販で欲しい物が買える時代。
それでも、2年前から収集を始めた千葉県の40代男性は「手に取って肉眼で見ないとダメ。足を運ばないと本当の魅力が分からない」と語る。

宮城県蔵王町のみやぎ蔵王こけし館でも「ブームで来場者が増えている」(接客担当の女性)。
こけしを展示するカメイ美術館(仙台市)の学芸員も「若い来場者が増えた」と言う。

津軽系こけしを制作する黒石市の阿保正文さん(35)は「こんなブームが来ると思っていなかった」と打ち明ける。
阿保さんがこけしを作り始めた13年前、こけし人気は下火で客層は年配者が中心だった。

「年配の客がいなくなったら、私の生活はどうなるのかと心配していた」と振り返る。
現在は注文が入ってもすぐ納品できず、3カ月待ちの状態。
工人によっては納品まで1年以上かかる人もいる。

40年以上前から収集を続け、1万本以上のこけしを所有する青森市の会社代表山谷雅英さん(65)は「以前は高価な大型のこけしが人気だったが、今は価格の手頃な小型の品に人気が集まっている」と語る。
小型のこけしを制作するのも、工人の手間は大型とさほどかわらないため、単価が下がったと嘆く声もある。

ある工人は「お客さんの中には、工人に直接細かいデザインの要望をする人もいる。
ブームはうれしいが、個別に対応し続けるのは大変」と漏らした。

Yahoo!ニュース(東奥日報社) 2018/4/1(日) 12:59
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180401-01125909-webtoo-l02