今年も大量のスギ花粉が飛散し、花粉症に悩まされている人は多いはず。4月はヒノキの花粉飛散も始まり、くしゃみが止まらない日が続きそうだ。そんな中、「花粉症を元から絶つ」対策が進む。神奈川県や富山県では無花粉の杉への植え替えが進み、花粉が少ないヒノキの植林も始まる。新たに木を植えるには、それまで生えていた木の伐採が必要。国民病ともいわれる花粉症をなくすには、国産木材の利用促進と林業振興が欠かせない。(猪塚麻紀子)

「無」「少」苗続々と
 神奈川県では花粉が少ない杉を選抜し、2000年に苗木生産が始まった。04年には全ての苗を花粉が少ないものに転換。同年には県内で花粉を出さない杉が発見され、無花粉杉の研究が進み、10年から植栽が始まった。

 同県秦野市の山口富治さん(86)は、苗木作り60年以上の生産者。現在、50アールで無花粉杉、花粉が少ない杉とヒノキを栽培する。出荷ピークは春で、年間約1万株を出荷する。

 苗木は種から生産する。畑に種をまいて栽培する他、一部はポットに植え替えて管理し、2、3年生苗を出荷する。

 1、2月に県職員らが生産者の畑へ出向き、一本一本の雄花から花粉の有無を顕微鏡で調べる。掘り取りや植え替えなども通常の苗より手が掛かる。それでも山口さんは「材木として質が良く、花粉のないきれいな山をつくりたい」と日々の管理に力を入れる。

 無花粉杉の生産は、1992年に富山県で花粉が全く出ない杉が偶然発見されたことが契機となった。花粉がない杉は自然界に5000本に1本の割合にあるとされる。同県が無花粉になる遺伝様式を突き止め、種を大量生産する技術を開発した。

 無花粉になるのは、1対の劣性遺伝子が要因。無花粉の木と花粉が少ない木を交配すると、半分は無花粉の個体が生まれる。このため、無花粉杉の出荷には選別作業が必要となる。

 神奈川県では、無花粉のヒノキ生産にも取り組んでいる。少花粉ヒノキの出荷は始まっていたが、県自然環境保全センターの齋藤央嗣主任研究員らが2年がかりで県内の約4000本のヒノキを調査。12年に全国で初めて無花粉ヒノキを発見した。現在は、挿し木による増殖に取り組んでいる。
改植へ国産材利用
 林野庁によると、無花粉・少花粉杉の生産は年々増えている。16年度の全国生産量は533万本で、杉苗木全体の25%に上る。ただ植林面積に換算すると、現存する杉の人工林の面積の0・1%に満たないのが現状だ。

 植え替えを進めるには、苗木生産だけでなく木材の伐採が必要となる。それには国産材の利用促進が不可欠だが、近年の木材自給率はわずか30%台。同庁は「森林資源の循環利用を推進することは、花粉発生源対策の観点からも重要」としている。

 同庁は、併せて花粉を発生させない広葉樹との混交林化や、杉の雄花だけに寄生して枯死させる菌類を活用した花粉飛散防止剤の実用化など、花粉発生源対策を掲げる。

 日本気象協会によるとスギ花粉のピークは各地で異なるが、東京では4月上旬まで。4月からは各地でヒノキ花粉が飛び始める。花粉の飛散は晴れて風の強い日や、雨上がりで気温が高い日に多くなる。外出から帰ったら花粉を払うなどの対策が効果的だという。

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