東京・銀座にある中央区立泰明小学校がイタリアの高級ブランド「アルマーニ」監修の制服を採用し、「高額すぎる」との批判が出た。国防を担う陸上自衛隊でも「制服問題」が起きている。陸自は3月に制服を一新したが、全隊員に支給されるまで10年もかかるという。予算や生産工場の確保が困難なためだが、隊内からは「支給が遅れる隊員や部隊の士気が落ちる」と懸念の声が漏れる。一気に解消できる「禁じ手」もあるのだが…。

 「どうですか。格好いいでしょ」

 3月27日、東京・市ケ谷の防衛省で陸自隊員からこう声をかけられたが、最初は誰なのか分からなかった。見慣れた濃緑色ではなく紫紺色の新しい制服を着ていたためだ。隊員は「素材もかなり軽くなっていて、着ていて楽なんです。若い隊員からも評判良いんですよ」とご満悦だった。

 陸自は同日、全国の陸自部隊を一元的に指揮する「陸上総隊」と離島奪還の専門部隊「水陸機動団」を発足させた。陸自は今回の組織改編を創隊以来の大改革と位置づけており、制服も27年ぶりに新調することに決めたのだ。

 紫紺色に変更された新制服は、階級が分かりやすいようズボンや袖に側線を入れた。陸自によると、新制服のコンセプトは「強靱性」「使命感」「品格」で、隊員や外部有識者の意見を参考に決めたという。陸自トップの山崎幸二陸上幕僚長は記者会見で「若者に焦点をあてて、よりスマート、シャープなデザインを追求した」と胸を張った。

 しかし、新制服に心を躍らせているのは一部の隊員に過ぎないようだ。今回、新制服が支給されたのは約15万人の全隊員のうち3万人だけ。各隊員には冬服、夏服各2着、帽子、コート、靴などが支給され、全員に行き渡るまでに約10年かかる見通しだ。水陸機動団などの新編部隊や新規採用者、幹部自衛官などから優先的に支給され、一定期間は新旧の制服が混在することになる。

 陸自幹部は「後回しになった部隊や隊員は『自分たちの任務は重要ではないのか』と士気が落ちてしまう」と懸念する。自民党国防族からも「人材の採用にも影響する」「制服が不ぞろいなんて見栄えが悪い」と問題視する声が続出しており、防衛省に調達計画の短縮を求めている。

 陸自関係者は「できるだけ早く整備したいが、予算や生産工場の確保が困難なため、一括で準備するのは難しい」と嘆く。

 陸自によると、新制服の一式価格は約22万円で、15万人分をそろえるには計約330億円が必要と試算している。これに対し平成29年度予算では42億円、30年度予算は31億円の計上にとどまっている。

 陸海空で最大規模の人員を誇る陸自は近年、予算確保に苦慮している。核・弾道ミサイル開発を続ける北朝鮮や、東シナ海周辺の海空域を脅かす中国などの脅威は高まる一方だが、直接的には海自や空自がメーンに対応している。このため予算措置でも戦闘機や護衛艦、潜水艦などが重視され、陸から海空への偏重傾向が顕著になりつつあるのが実情だ。

 陸自も垂直離着陸輸送機オスプレイの運用や沖縄県の宮古、石垣両島などへの部隊配備など南西諸島防衛で存在感を示す。ただ、国防とは直接関係のない制服予算を声を大にして要求するのは、はばかられるという事情があるようだ。

 この「制服問題」を解消する方法もある。現在の国内生産にこだわらず、生地も労働力も安く済む外国製にすれば、一括とはいかないまでも調達期間をかなり短縮できる。

 だが、抵抗感も大きい。例えば陸自隊員が「メイド・イン・チャイナ」の制服を着て中国の脅威に対峙することになれば、より士気に関わる問題となり得る。国防を重視する安倍晋三政権では起きないだろうが、民主党政権下で行われた事業仕分けでは、仕分け人から「外国製も含め柔軟な購買を」と予算縮減を迫られたこともあった。

 予算に限りはあるとはいえ、隊員の名誉や士気は優先的に考えなければならない。やはり、陸自内で予算の効率化を図りながら地道に新制服をそろえていくしかないようだ。 

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