恐竜の卵の温め方は、巣の材料を調べることで推定できることが名古屋大などの研究で分かった。太陽の熱や、土に混じった植物が発酵する際に出る熱などを使い分けていたとみられる。生き残るため生息地の環境に合わせて温め方を選択していたようだ。


 恐竜の多くは親が卵を抱かず、巣の中に卵を埋めて周囲の熱を利用して温めていたことが、世界各国で見つかった巣の化石から分かっている。だが、卵の温め方と生息域の関係は解明されていなかった。

 特に注目されるのは環境が厳しい北極圏だ。恐竜が絶滅する直前の6600万〜6800万年前の白亜紀末期は、シベリアの夏場の平均気温が19度に達するなど現在より温暖だったが、他の地域よりは冷涼だったことから、卵をどうやって温めていたかは大きな謎だった。

巣の材料から推定

 研究チームはまず、恐竜と同じ主竜類に属するワニ類、鳥類の卵の温め方を調査した。鳥類は抱卵しない種に限定して分析した結果、巣の材料に土や植物を使う種は植物の発酵熱、砂を使う種は太陽熱や地熱を利用して卵を温めていることが判明。巣の素材から卵を温める方法を推定できることが分かった。

 これに基づき世界各国で見つかった恐竜の巣の化石192例を分析し、卵の温め方を推定した。

 ブラキオサウルスやアパトサウルスに代表される体が大きくて首が長い草食恐竜「竜脚形類」の仲間の巣は主に砂岩で見つかったことから、砂中に産卵し太陽熱や地熱を利用していたと推定した。

 顔がカモノハシに似ていて、北海道むかわ町でも全身骨格が発掘された草食恐竜「ハドロサウルス類」の仲間の巣は、主に有機物を多量に含む泥岩中で見つかっており、土壌に含まれる植物の発酵熱を利用していたとみられるという。

 また、卵を抱えた状態とみられる化石が見つかったことがある鳥類に近い肉食恐竜「トロオドン科」や、オウムのような顔をした鳥類に近い「オビラプトロサウルス類」の巣は、泥岩と砂岩からほぼ同じ割合で見つかっていた。どちらも卵を抱いて温める少数派の恐竜のため、どんな環境でも営巣できたらしい。

北極圏は発酵熱・抱卵で生き抜く

 太陽熱を利用する方法が効果的なのは、赤道に近く暖かい低・中緯度に限られる。化石が見つかった場所を調査したところ、太陽熱や地熱を利用していた恐竜は北緯20〜50度の中緯度地域に集中していた。

 一方、植物の発酵熱や抱卵は比較的冷涼な環境でも利用できる。シベリアでは発酵熱で温めるハドロサウルス類や、抱卵を行うトロオドン科の卵の化石が見つかっていたことから、北極圏の恐竜は発酵熱や抱卵で生き抜いていたと推測した。

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 恐竜が生息域を拡大していくには、運動能力だけでなく、卵の温め方が大きな要素となっていた可能性がある。名古屋大博物館の田中康平特別研究員は「今回の研究で、恐竜たちが厳しい環境を克服してきた過程の一部を明らかにすることができた。今後は卵の温め方の違いを利用して、生息域のさらなる解明につなげていきたい」と話している。(科学部 伊藤壽一郎)

http://www.sankei.com/smp/premium/news/180407/prm1804070016-s1.html