張本氏は1976年、日本ハムから巨人に移籍。
監督2年目の長嶋氏は「厳しかったですよ。野球にすごく純粋な方なんですよ。
勝ちたい一心なの」という人物だった。
「私35歳でしょ。パ・リーグでは肩で風切って歩いていた生意気な男ですよ」
という張本氏だが、長嶋氏には「引っぱたかれましたよ。平手」と、
ビンタされたという。

「富山県でゲームがあって、2対1でうちが勝ってたんですよ。確か6回裏かな。
1アウト一、三塁。私ですよ」というシチュエーション。
「スクイズのサイン出てた。見ませんよ!。出ると思わないから。
それでボール投げたでしょ。三塁ランナーの柴田(勲)が
走って帰ってくるわけですよ。『お前何やってんだよ!』
『張本さん、スクイズですよ!』」
張本氏は「私、何十年やってるけど、バントやったことないんだから。
スクイズってのはね、打てない人がだいたいやるもんだから。
なんで俺にバントのサインしやがってと思うじゃん」と、不満タラタラ。
二死二塁と場面は変わり、張本氏は「たまたまヒット打って
二塁ランナー帰ったんですよ」と、適時打を放った。

試合後、長嶋監督に呼ばれて「よーし、小遣いでもくれるかな」と行った
張本氏だが「座れ!」と一喝されて「パチーンと来たよ」と平手打ちされた。
長嶋氏は「お前がゴロを打つ場合もあるじゃないか。
ダブルプレーなら点が入らないじゃないか。もう1点どうしてもほしいんだ。
点が入って2アウトセカンドで王(貞治)に回して、
そういう流れを俺は考えてたんだ。なんで監督のサインに従わないのか。
お前が将来、指導者になったら、この気持ちが分かるはずだ」と、
張本氏に熱く説いた。

張本氏は「この人は野球に対して純粋」と痛感し「よし、この人についていこうと
思った。生意気な私をね、たたく人います?いないです」と、
長嶋氏に忠誠を誓ったという。