◆糸を使わない不思議なミシン 奈良の企業「世界に広めたい」 体験教室も開催

特殊な針で繊維を絡めることにより、糸を使わずに複数の生地を貼り合わせる技法「ニードルパンチ」を用いたミシンを奈良市の企業が生み出し、脚光を浴びている。
「タナカアンドカンパニーリミテッド」(同市学園北)。
海外のアパレル会社やデザイナーからも発注が相次いでおり、田中茂樹社長(53)は「誰もが簡単に斬新なものを生み出せるミシン。世界中に広めていきたい」と意気込んでいる。

マンション一室にある同社事務所。
スタッフがミシンのリズミカルな音を響かせながら、別々の生地に針を通していく。
すると、デニム生地にチェック柄の模様がうっすらと浮かび上がった。

ニードルパンチミシンの針は用途に応じ、7本仕様▽12本仕様▽36本仕様−の3種類があり、それぞれに小さな突起物のような「返し」が付いている。
生地を重ねた状態で繰り返し針を通すと、互いの繊維が絡み合って貼り合わせられるという仕組みだ。

通常の縫い物よりも強度は劣るが、糸がいらず、それゆえ小さな針穴に糸を通す面倒な作業も不要。
さまざまな素材を掛け合わせることで、縫い物では表現できないデザインも可能になった。
ドレス用の薄い生地にも応用できるといい、手軽に始められるのもメリットだ。

田中社長はファッション好きが高じ、昭和63年にミシンメーカーに就職。
設計や修理に関する技術を学んだり、さまざまな機械メーカーの展示会に参加したりする中、ニードルパンチという技法を知った。

カーペット作りでは一般的な技法だったが、「服にも応用できないか」と考え、一念発起して8年勤めたメーカーを退職。
平成8年、ミシン製造に携わっていた父、修さん=享年(73)=と一緒に現在の会社を設立した。

試行錯誤を経て、それから約7年後にニードルパンチミシンが完成。
海外からも注目を集め、19年に特許を取得した後は欧州のアパレルメーカーや国内の芸術系大学、さらには一般家庭にも販路を拡大した。
現在は海外の工場でミシンを生産し、家庭用は1台約6〜11万円で販売している。

目下の課題は知名度の低さ。
田中社長はミシンの普及に駆け回る一方で、体験教室を事務所や大阪府内で月に2回程度開き、作品の魅力を伝えている。

田中社長は「ニードルパンチミシンを使い、デザインの幅が広がる楽しさを知ってもらいたい。
地元の奈良に根づかせながら、いずれは世界中の人を笑顔にできれば」と話している。

写真:ニードルパンチミシンで作業する田中茂樹社長(中央)とスタッフ=奈良市
http://www.sankei.com/images/news/180424/wst1804240021-p1.jpg

産経WEST 2018.4.24 08:33
http://www.sankei.com/west/news/180424/wst1804240021-n1.html