安売りの目玉商品とされ原料高騰などで厳しい経営環境にあえぐ、もやし業界。廃業が相次ぐ中、小規模生産者は深夜に作業して取れたての高品質なもやし作りで生き残りを懸ける。店頭に安価で並ぶもやしだが、温度管理や発芽調整が難しく、細心の注意を払って生産する“農家”に支えられている。1袋数十円のもやしには、農家のプライドが詰まっていた──。(猪塚麻紀子、尾原浩子)

 日付が変わる少し前の午後11時。熊本市でもやしを生産する熊本製萠(せいほう)の従業員が出社してくる。1日に1・5〜2トンを生産する同社では、朝の市場出荷に合わせて真夜中に出荷作業を進める。「取れたてのもやしを消費者に食べてほしい。おやじの教えを守っている」と5代目社長の鳥井文博さん(34)。種を5〜7時間湯に漬け、発芽させ、暗室に入れ水を掛けて4、5日たって収穫、袋詰めして出荷する。作業のほとんどが夜間だ。

 もやしは工業製品のように誤解されがちだが、温度管理や水の量などを少しでも間違えると腐ることもあり、細心の注意が欠かせない。だからこそ鳥井社長は「自分は生産者、職業は農業」と考える。季節や外気によって管理は異なり、暑い時期は配送時には氷を入れるなど気を配る。

 社員の松下信一さん(47)は「もやしは生きている。うちのは濃厚で歯応えが抜群。どこのもやしでも同じと思われる食材だが、食べたら違いが分かる」と思いを語る。もやし作りへのプライドが、昼夜逆転の生活をして10年近い松下さんを支えている。

 安売り商品の代名詞となるもやし。同社の適正価格への思いは強い。卸値で1袋(200グラム)30円以下なら、同社の場合は利益が出ない。150の販売先を持つ同社は、販路開拓などの経営努力と、均質な味への信頼から極端な安値で販売する売り先が減り、2年前にやっと赤字を脱却した。

 鳥井社長は「食べ物が安価に流れる社会は、絶対に良くない。あえてこの時代、愚直でも効率の悪いもやしを作り続けたい」と言う。味や安心にこだわり、直接スーパーや飲食店に納品し、顔が見える関係を地域で築く経営スタイルは「小規模だからこそ」(鳥井社長)。大手企業だけが生き残る社会になってほしくないと願う。

 営業を終えた飲食店から、同社に深夜かかってくる翌日分の注文の電話では「いつもありがとう」の言葉が添えられる。配送担当の浪花秀二さん(32)は「繊細なもやしを無事に運ぶのは苦労する。値段だけではない魅力をお客さんに届けたい」と話す。

原料が高騰、廃業100社超

 工業組合もやし生産者協会によると、小規模・零細の業者は今も夜間に製造するところが多いという。協会に加盟する58社のうち、1年間に使う原料が50〜100トンの小規模業者は半数。協会の林正二理事長は「小規模だからこそできるサービスや商品の売り方がある」と強調する。

 一方で、深夜作業を避け、早朝から工場を稼働させる九州の別の業者は「種によっても成長具合は異なるため、生産には細心の注意が必要。時間帯にかかわらず、どの経営者も苦労して作り続けている」と話す。

 協会によると、2009年に全国で230社以上あったもやし製造会社・生産者は100社以上が廃業。卸値が抑えられる中で、原料の中国産緑豆の価格高騰を受け採算が悪化したためだ。17年産は緑豆価格が1、2割下がり、一部のスーパーで値上げの動きも出始めたことから、この1年で廃業には歯止めがかかっているという。

 林理事長は「鮮度や手りという付加価値を高め、近隣の飲食店などとの信頼関係を築いていけば、健全な経営を続けていくことができる」と理解を求めている。

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