★失われた家族との5年間。保護という名の拉致事件。

元飼い主は当時、交際していた男からパワハラを受けていた。
しかも男は会社の上司でもあるため、逆らうことができなかった。
他人の犬を勝手に捨てるような男だから、残虐で暴力的な人物なのは間違いない。
が、男は上司という立場を利用し、元飼い主に無理やり交際を強要されていたのだ。

そんな毎日に耐えかねた元飼い主は、長年勤めた会社を辞めることで男と別れることができた。
これに協力してくれたのがかつて離婚した元夫だった。
ここまでくるのに3ヶ月近くかかってしまったが、元飼い主はやっとの思いで愛犬を引き取りに向かうことができた。

しかし、愛犬を保護していた夫婦は引き渡しを拒絶し、元飼い主を門前払いにした。
夫婦が引き渡しを拒絶したのは、元飼い主が信用できないからという漠然とした理由からであった。

元飼い主は何度も愛犬の引き渡しを懇願した。
これまでの飼育費はもちろん、謝礼として多額のお金を包むことも提案した。
だが、愛犬を保護した夫婦はすべての提案を拒否し、愛犬はすでに我々の家族だと称して離そうとしなかった。

元飼い主はこの時点で、愛犬と9年一緒に暮らしてきた。
それがたった3ヶ月しか暮らしていない他人に愛犬を「家族」呼ばわりされ、違法な形で捕らわれたことに激しい怒りを覚えた。

あれから5年の月日が流れ、地裁でも高裁でも全面的に元飼い主の主張を認めた。
そして、現飼い主には裁判所から返還と慰謝料の支払い命令が下された。

それでも現飼い主は抵抗する。

自分たちをまるで被害者の様に表現し、ネットで公に署名や同情を集め、影では元飼い主が「上司と不倫」「飼い犬を捨てて男に走った」「どうせまた捨てる」「虐待していた」などと、根も葉もないことを流布するようになった。
マスコミに偏向報道をさせてまで、激しく激しく現飼い主は抵抗した。

5年という月日は、元飼い主にも愛犬にも長すぎる年月だった。

もう愛犬は、いつ亡くなってもおかしくない年齢になっていた。
元飼い主は想う。もう残された時間が僅かなのは知っている。
愛犬が離れてしまった責任は私にもある。

でも、だからこそ、残された時間は一緒に居させてほしい。
頼りないママだったけど、悲しい思いをさせてしまったママだけど、それでもママは……。

本来なら元飼い主に返したのちに、現飼い主がたまに会いに来るのが筋というものだ。
現飼い主も人の親なら、犬を愛する人間なら、一刻も早く元飼い主に「めぐ」を返すべきではないだろうか。