世界中の両生類の多くが、存続の危機に直面している。その元凶となっているのが、カエルツボカビ症を引き起こす真菌、カエルツボカビ(Batrachochytrium dendrobatidis)だ。200種を超える両生類を絶滅または絶滅寸前に追い込み、地球全体の生態系を急激に改変しつつある。

 世界中の両生類の多くが、存続の危機に直面している。その元凶となっているのが、カエルツボカビ症を引き起こす真菌、カエルツボカビ(Batrachochytrium dendrobatidis)だ。200種を超える両生類を絶滅または絶滅寸前に追い込み、地球全体の生態系を急激に改変しつつある。

「生物多様性への打撃という点では、これまで知られている限り、史上最悪の病原体です」。英インペリアル・カレッジ・ロンドンの菌類学者で、カエルツボカビを研究するマット・フィッシャー氏はこう語る。

きっかけは朝鮮戦争か?

 そんな中、世界各国の研究者58人から成る研究チームが、この真菌がどこから広がり始めたのかを明らかにした。学術誌「サイエンス」に5月11日付けで掲載された画期的な研究で、カエルツボカビが現れた最も有力な場所と年代が特定されている。

 それは、1950年代の朝鮮半島だ。

 カエルツボカビはこの地を起点に人間の活動によって偶然に移動し、広範囲に散らばっていったと、科学者たちは仮説を立てている。これが、南北アメリカ、アフリカ、ヨーロッパ、そしてオーストラリア各地での両生類の死滅につながった。

 インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究者で、この論文の筆頭著者であるサイモン・オハンロン氏は語る。「病原体が広がるきっかけは、何か1つの出来事だったかもしれませんし、いくつかの出来事の積み重ねだったのかもしれません。あるいは、何らかの人為的な大事件だった可能性もあります。例えば、朝鮮戦争のような」

 カエルツボカビの由来がわかることで、研究者たちは、多様なツボカビがいるホットスポットを監視し、新たな脅威について調べられるようになる。さらに今回の研究結果は、世界規模の貿易がきちんとした管理なしに行われると、知らず知らずのうちに生態系の破滅を加速させてしまうという警告も発している。


Bdによって、フランスのピレネー山脈にいたサンバガエルは個体数が激減した。この地域のBdの拡大を研究する英インペリアル・カレッジ・ロンドンの菌類学者、マット・フィッシャー氏は、「カエルたちは生涯最後のジャンプをしますが、拾い上げると、間もなく手の中で力尽きてしまいます」と語る。

カエルの死体のじゅうたん

 略して「Bd」と呼ばれるカエルツボカビが恐ろしいのは、両生類の透過性が高い皮膚を標的にするからだ。両生類は、皮膚から酸素や水分を吸収する。Bdは、両生類の皮膚に含まれるたんぱく質ケラチンを利用して成長し、皮膚呼吸や体内の浸透圧の調整を阻害すると考えられている。感染した両生類は次第に無気力になり、皮膚がはがれ落ちて、数週間でみるみる弱って心不全で死ぬ。Bdに耐性のある両生類もいるが、感染する可能性のある種は少なくとも695種に上る。

 米メリーランド大学の生物学者で、両生類の減少に詳しいカレン・リップス氏は、「これほど幅広い種への影響が見られる病気は、かなり珍しいです」と話す。同氏は、今回の研究には関わっていない。

 Bdのまん延は、聖書にあるような大災害を思わせる。毎年8月、フランスのピレネー山脈に生息するサンバガエルは成体になり、生まれた湖から初めて上がる。感染したカエルは、岸に上がるのがやっとだ。論文の共著者の1人であるフィッシャー氏は、「カエルたちは生涯最後のジャンプをしますが、拾い上げると、間もなく手の中で力尽きてしまいます」と語る。「湖岸を歩いてみればわかります。まるでカエルの死体のじゅうたんが広がっているような光景ですから」

 同様の大量死が起こり始めたのは1970年代だが、こうした「謎の減少」が地球規模の現象だと研究者たちが認識したのは1990年代になってからだ。1997年に研究者が初めてBdに関して述べると、10年のうちに大量死と関連づけられた。その間もBdの猛威は止まなかった。パナマのある地点では、2004年から2008年にかけ、現地の両生類の種のうち41%がBdによって失われた。

 かつて原因不明とされていた両生類の大量死の多くが、今ではカエルツボカビの一系統で、致死性の高い高病原性系統(BdGPL)によるものとされている。しかし、この強力な系統はどこから来たのだろう? そして、いつ、どうやって世界中に広がったのだろうか?

>>2に続きます
全文はこちら
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/18/051400211/
カエル死体画像注意
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/18/051400211/ph_thumb.jpg