「愛知・三河のソウルフード『キリンラーメン』、大人の事情で名称変更を発表 新名称は一般公募に」というニュースがありました。

愛知県西三河地方のご当地ラーメン「キリンラーメン」が「大人の事情」により名称を変更することが分かりました。発売元の小笠原製粉が新名称を一般公募しています。

というお話しです。大人の事情については、容易に想像が付くように、飲料大手「キリン」との商標権の問題であると思われます。キリンは飲料専業かと思われがちですが、たとえば、穀物加工品等を指定商品とした商標登録4180368号等を所有しています。

そして、この商標登録には、キリンラーメン製造元の小笠原製粉が2014年7月24日に不使用取消審判を請求していることがわかりました(取消2014-300549)。この商標権が名称変更の理由であることは確実でしょう。

不使用取消審判は3年以上使用していない商標を(指定商品単位で)取り消すことができるという制度です。一般には、商標権を行使された側が対抗手段で請求することがあるので、これに先立ちキリン側から「キリンラーメン」名称変更の働きかけがあったものと思われます。

この不使用取消審判の請求は、キリン共和フーズがキリンからの正当なライセンスの元に「かゆ」に使用していたため認められませんでした。この不使用取消審判の審決取消訴訟も提起されましたが、こちらも小笠原製粉側が敗訴しています(判決文)。

残された手段として、キリンラーメンは1965年から愛知県碧南市を中心に発売されている即席ラーメンということなので(少なくとも愛知県内においては周知性を得ていそうなことから)先使用権(商標法32条)を主張できないのだろうかという疑問がわきます。

しかし、先使用権は周知性に加えて継続使用が要件となっているところ、キリンラーメンは1998年に一時生産休止となっているため、これも厳しいと思われます。

第三十二条 他人の商標登録出願前から日本国内において不正競争の目的でなくその商標登録出願に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についてその商標又はこれに類似する商標の使用をしていた結果、その商標登録出願の際(略)現にその商標が自己の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているときは、その者は、継続してその商品又は役務についてその商標の使用をする場合は、その商品又は役務についてその商標の使用をする権利を有する。(略)

キリンとしても将来的な事業拡大を想定してインスタントラーメン等の権利を押さえておかないとまずいというのはブランド戦略としてはわかります。ただ、もう少し平和的な解決はできなかったのかと思います。たとえば、製造個数や販売地域を制限し、かつ、パッケージデザインも現状のまま変更しないという条件付きで商標権をライセンスするなどです。キリンと小笠原製粉との間でどのような交渉があったのかは外部からはわかりませんので、そういう交渉も行なったが決裂したという話なのかもしれませんが。正直、キリンラーメン側がちゃんと商標登録しておけばよかったのにと思わざるを得ません。
https://news.yahoo.co.jp/byline/kuriharakiyoshi/20180529-00085798