【サンパウロ=外山尚之】ブラジルで5月下旬から起きたトラック運転手の大規模ストライキは、世界経済に影響を与えた。物流網のまひで農産品などの輸出が打撃を受け、日本の鶏肉価格が上昇。ストは収束に向かっているが、農畜産品を世界中に輸出する「世界の食料庫」の混乱の余波は大きい。

 最大の影響は畜産業界だ。軽油価格の上昇に怒った運転手によるストで飼料の供給が滞り、家畜が餓死したり食肉加工施設での食肉処理が停止したりした。ブラジル動物性タンパク質協会によると、飼育される鶏の7%にあたる7千万羽が殺処分になった。

 ブラジルの鶏肉生産量は米国に次ぎ世界2位。日本国内で流通する鶏肉の2〜3割が輸入品で、うち7割がブラジル産だ。ブラジル産鶏肉の卸値(冷凍品)は1キロ300円前後で1カ月で3%上昇した。外食や総菜の唐揚げに多く使われており、「供給への不安感は強い」(食品加工メーカー)。鶏肉以外でも「原状復帰には少なくとも6カ月から1年間かかる」(ブラジル全国農業連盟)とみる。

 工業への打撃も大きい。自動車生産が約1週間全面停止し、通年の生産台数の1.9%分にあたる約5万台の生産が滞った。トヨタ自動車はブラジル国内の全工場を1日まで停止。ホンダも5月30日まで工場の操業を止めた。鉱業もストップし、5月の鉄鉱石の輸出は前年実績を6%以上、下回った。

 ブラジル開発商工省によると、5月末時点で1日の輸出量はスト前から4割弱減少。米利上げペースの加速などでレアル安が続く中、輸出に活路を見いだそうとした企業にとって打撃となった。政府は燃料費補助の代わりに輸出業者への税金の払い戻しを減らすとし、中長期的にも輸出を押し下げる恐れがある。

 地元経済紙バロル・エコノミコは1日「(18年の)国内総生産(GDP)増加率は1.5%へ」と予測。ブラジル政府は5月、目標を2.5%増に下方修正したばかりだった。主要株価指数ボベスパは5月28日、スト発生前から9.3%下落して年初来安値を更新。今なお発生前の水準を8%超下回った。騒動の責任をとって最高経営責任者(CEO)が辞職した国営石油会社ペトロブラスの株価はスト発生前から約3割落ち込み、ブラジル経済の下振れリスクへの懸念が出ている。

2018/6/8 0:14
日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31524750Y8A600C1FF2000/