◆シャープが東芝から赤字のPC事業を買い取る「深い勝算」

■V字回復のシャープが引き受ける東芝の赤字PC事業

2016年に台湾の鴻海精密工業(以下、ホンハイ)傘下に入ったシャープの経営が、V字回復している。
2016年3月期は売上高約2.5兆円、純損失2560億円だった連結業績が、2018年3月期には売上高約2.4兆円、純利益約700億円と、2年前とほぼ同じ売上規模で大幅な利益増となる黒字経営を実現した。

そのシャープは今年6月5日に2000億円の公募増資を行い、金融機関が保有する優先株を買い取ることを発表した。
これで財務の健全化を果たし、いよいよ負の遺産を一掃することになる。

さて、その同じ日に、シャープは40億円で東芝のPC事業を買収することを発表した。
東芝のPC事業といえば、2018年3月期の決算が売上高1470億円、営業赤字84億円という赤字事業である。
なぜシャープはこの買収に踏み切ったのだろう。

もともとシャープも、「メビウス」ブランドでパソコン事業も展開していた。
それが経営悪化の過程で選択と集中を余儀なくされ、2010年にパソコン事業から撤退している。

シャープだけでなくソニー、東芝といった電機メーカーでパソコン事業がお荷物になった理由は、1つには市場の縮小、そしてもう1つは海外メーカーとのコスト差である。
スマホやタブレットの普及で家庭用を中心にパソコン市場は縮小している。

結果的には、堅牢性や携帯性が求められる法人用、高速処理が必要なゲーム用など、用途別に特化した市場でメーカー各社は生き残りをかけている。
しかしそれでも、日本の大手メーカーのような高コスト体質のままで黒字化は難しい。

東芝のPC事業はまさにそのような問題を抱えている。
そうは言っても、東芝の「ダイナブック」はノートブックパソコンの先駆けとしてのブランドを確立し、現在でも法人用の市場で需要は底堅い。

今回の買収に関する報道によれば、シャープはダイナブックブランドだけでなく従業員や工場を含めて買収するということなので、要は東芝グループの赤字事業の経営を、シャープなら立て直せるという算段があっての買収計画ということになる。
大手企業にとって40億円という金額自体はそう大きくないが、赤字事業ということを考えれば将来の事業リスクは跳ね上がる。
それでも採算が合うという同社の「そろばん勘定」はどこから来ているのだろうか。

■縮小市場でも魅力はある 経営の帳尻を合わせることが重要

先に一般論を述べると、縮小市場の商品だからといって魅力がないビジネスだと言い切ることはできない。
そして世の中には赤字企業を買収して、それを黒字化することを得意としている企業は結構ある。
要は、縮小する市場において見込める「入り」の部分、つまり売り上げやサービスからの収入計画に対して、黒字になるように「出」の部分となる費用や投資の面をコントロールできるかどうかが、事業を黒字経営するために必要な考え方なのだ。

そして個別論として重要なことは、シャープを買収したホンハイがまさにこの事業の黒字化に精通しているということだ。
ホンハイグループの郭台銘(テリー・ゴウ)会長の右腕で、シャープの社長に着任した戴正呉氏は、まさにこの原則を熟知していた。

それまで億単位の決裁が部下に権限委譲されていたシャープの仕組みを、戴社長は数百万円単位まで引き下げて、自らがチェックをする体制に切り替えた。
出ていくお金を徹底的に管理することが、経営者としての建て直しの最初の着眼点だったのだ。

とはいえシャープは、V字回復の過程でコストカット経営ばかりをしていたわけではない。
ホンハイの資本下でシャープが復活できた背景としては、シャープ・ブランドに対しての投資が十分に行われたことが大きい。
買収当時、韓国のサムスン電子とLG電子の二大プレーヤーがほぼ牛耳っていた世界の液晶大画面テレビ市場において、シャープもそれに匹敵するブランドであることを知らしめるため、戴社長は積極的なブランド投資を惜しまなかった。

一方で、ホンハイは高品質な製品を圧倒的な低コストで製造するノウハウに長けている。
ホンハイ傘下のフォックスコンがあのiPhoneの生産を引き受けていることからも、それはわかるはずだ。

ダイヤモンドオンライン 2018.6.8
https://diamond.jp/articles/-/171924

※続きます