所有者不明の農地が増え続け、近隣農家や農業委員会に重い負担となっている。中山間地では山林化した土地が多く調査は難航、所有者が死亡し子孫が分からないケースも多い。農水省は所有者不明の耕作放棄地を知事裁定で農家に貸し出す仕組みを始めた。ただ、開墾が必要な農地も多く「誰が管理するのか」「活用できない農地こそ問題」と切実な声が出る。条件の厳しい中山間地で、所有者不明の農地の問題が深刻さを増す。(猪塚麻紀子、尾原浩子)
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■借り手農家少なく 静岡県東伊豆町

 急傾斜地の農地が点在する静岡県東伊豆町。軽トラック1台がやっと通れる細い山道を上り、ミカンを作る楠山節雄さん(69)は「規模拡大や集約化と盛んに言われるが、伊豆の山間地の実態とは懸け離れている」と険しい表情を見せる。同町の耕地面積は249ヘクタール。大半は車が通れない山奥にあり、農家は消毒タンクを背負い山道を何往復も“登山”する。収穫も重労働だ。

 同町では毎年、農家と役場職員が農地の利用状況を調査する。対象農地は7300筆を超え、地図と照らし合わせる確認作業は時間を要する。登記上は農地でも、山林化した耕作放棄地は相当数ある。その面積は把握できず、多くは所有者も分からない。「現場から言うとお手上げ」(同町農林水産課)の状況だ。

 同町は2017年、所有者不明の農地889平方メートルを全国で初めて知事裁定し、農地中間管理機構(農地集積バンク)を通じて農家に貸し付けた。同町が戸籍をたどると、所有者は戦後間もなく死亡し、5人の子どもも孫も亡くなっていた。ひ孫まで調べたが、所有者がつかめなかったことから知事裁定に至ったという。雑草どころか雑木が生え、花のハウスの日照を阻害していた耕作放棄地は現在、借りる農家が、かんきつ栽培に向け農地に復元する作業を進める。

 ただ同町によると、金と手間をかけて耕作放棄地を解消したいとする農家は一握り。農業委員会会長も務める楠山さんは「脚立を真っすぐ立てられないほどの急傾斜の農地ばかりで、高齢で耕作を諦める人が多い。農地を相続するメリットが乏しく、所有者不明の農地は増えるばかり」とみる。

 政府は6月、登記の義務化や、所有者が土地を放棄する制度を検討する方針を示した。8日に閣議決定した土地白書でも、8割が土地の所有権を「放棄を認めても良い」と回答する。ただ、同町農業委員会の梅原巧事務局長は「放棄後に費用をかけて農地に復旧しても、誰が管理するのか」と不安を募らす。

■九州超す410万ヘクタール

 民間調査によると、16年時点の所有者不明の土地面積は九州を上回る推計約410万ヘクタール。6日の参院本会議では、所有者不明の土地を知事の判断で、期限付きで公益目的で使える特別措置法が成立した。

 農水省は14年の農地法改正で、所有者が不明の耕作放棄地に知事裁定による利用権を設定し、農地集積バンクを通じて貸し出す仕組みを導入した。同省によると、これまでに4市3町1村で11件4・6ヘクタールの農地を貸し出している。静岡県内では、公示後に所有者が名乗り出た自治体もある。
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■中山間地でより深刻に

 中山間地では、活用しにくい所有者不明の農地こそ深刻な課題だ。鹿児島県指宿市の農業委員会会長で、オクラなどを栽培する諏訪園一行さん(78)は「相続未登記農地の追跡調査を重ねてきたが、解決は難しい。法制度を整備しても、解決するのは現場感覚では非常に厳しい」と話す。

 青森県五戸町農業委員会会長でリンゴ農家の岩井壽美雄さん(67)は「誰も使いたがらない、機械が入らないような狭い農地こそ所有者不明になる。こうした農地を今後どうするのかが問われている」と指摘する。

:6/9(土) 7:06
日本農業新聞
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