2018年7月1日 朝刊

 一文字も変わることなく七十年以上続いてきた日本国憲法。現存する憲法の中で、一回も改正されたことのない「未改正憲法」としては最も長い歴史を持つという。あらゆる憲法の条文を比較研究しているケネス・盛(もり)・マッケルウェイン東大准教授の研究室を訪ね、詳しく聞いた。 (高山晶一、安藤美由紀)

 准教授によると、これまで世界で制定された憲法は九百本弱で、そのうち現存するのは約百九十本。今年で公布から七十二年(施行から七十一年)を迎える日本国憲法は十二番目に古いが、「約四十本ある未改正の現存憲法の中では、日本国憲法は一番古いんです」と准教授。

 世界的な傾向として、憲法は時々改正した方が国民意識や政治・経済情勢の変化に対応できて長続きする。改正されないと戦争やクーデター、社会の変化に伴って廃止されやすい。過去の憲法を含め、未改正憲法の存在期間は平均七・二年。その十倍も続いている日本国憲法は、極めて珍しい存在だ。

 准教授は、大きな理由として、人権規定の多さを指摘する。
 「言論の自由」など代表的な二十六項目の人権について、各憲法が定めた数を調べたところ、日本国憲法は十七。現存憲法の平均は一五・八で、それほど変わらないようにも見える。

 しかし、日本国憲法以前に制定された憲法二百六十七本の平均は九・八。日本国憲法の人権規定は、制定当時は「とても進歩的」(准教授)だったし、今でも十分世界に通用する水準というわけだ。人権規定が充実していれば、国民は変える気になりにくい。

 日本国憲法は統治機構の規定が少なく、憲法を変えなくても法改正で対応できることも長寿の一因と、准教授は分析する。

 戦力不保持を定めた日本国憲法は「世界一の平和憲法」とも呼ばれる。現存憲法の93・1%は軍隊の存在を明記しており、書いていないのは6・9%で、日本以外は欧州の小国や太平洋の島国など。「日本国憲法は軍の最高司令官や兵役、軍事裁判所も書いていない。全部ない憲法はすごく珍しい」

 一方、改憲に必要な議会の承認に関しては、衆参両院の三分の二以上の賛成が必要とする日本国憲法は「一番スタンダード(標準的)」と准教授。自民党はかつて「世界的に見ても改正しにくい憲法」として、「過半数」の賛成に緩和する改憲草案をまとめたが、議会の承認を必要としている現存憲法の75・8%は「三分の二」と定めているという。

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