◆ドイツの再エネ推進、担当大臣がまさかの「敗北宣言」「火力をなくすことはできない」

■「国民の経済負担は計り知れない」

ドイツのエネルギー政策に関する話題を二つ。
まず、6月11日のEUの経済閣僚理事会で、興味深い動きがあった。

EUの全エネルギー消費における再生可能エネルギーのシェアの目標を、2030年で35%と定めようとしたら、ドイツの経済・エネルギー大臣、アルトマイヤー氏が、それにブレーキをかけたのだ。
ドイツの全エネルギーの最終消費における再エネのシェアは、現在15%だ。

発電部門では2017年、すでに36%のシェアに達しているが、熱部門は13%、運輸は5%強。
つまり、新しいEU目標値35%のためには、今の15%を倍以上に伸ばさなければならない。

家電製品はもっと省電し、家屋はもっと断熱し、全車の12%は電化する。
すべてはまだ夢の中のお話っぽい。

そこで、アルトマイヤー氏は言った。
「ドイツは現在、再エネのシェア15%達成のために年間250億ユーロを費やしている。
それを2030年までに倍増すれば、国民の経済負担は計り知れない」

■「火力をなくすことはできない」

ちなみに、氏は第2次メルケル政権で環境大臣を務めた。
また、他の政治家がバラ色のエネルギー転換政策(脱原発、再エネ推進、省エネ)を推進していたころから、コストの爆発に警鐘を鳴らしていた数少ない政治家の一人だ。

ドイツのエネルギー転換には、すでに莫大なお金が掛かっている。
緑の党は2011年、これによる国民負担は1ヵ月にせいぜいアイスクリーム一個分だと言った。
しかし、2017年、国民の電気料金に乗せられている再エネ推進のための賦課金は、四人家族ですでに1ヵ月3500円を超えている。

これが本来の電気代にプラスされるわけだから、ドイツの電気代はEU内で2番目に高い。
家庭用の電気代はフランスの約2倍だ。しかも、まだ上がる。
こうなると、いくら理想を語るのが好きなドイツ人も、こんなはずではなかったと思い始めた。

とはいうものの、アルトマイヤー氏の発言は、脱原発に舵を切り、国際会議では環境大国と胸を張り、再エネの拡大に向かって自国民にも他国民にも発破をかけてきたドイツにすれば、異色だった。
ほとんど「敗北宣言」と言ってもよい。

もちろん、この背景には、これ以上、無理な目標値を掲げるべきではないという思いがあったに違いない。
再エネがこれだけ増加したのに、ドイツは京都議定書で挙げた2020年のCO2削減目標を達成できないこともわかっている。
そのうえ、また新たな実現不能アドバルーンを打ち上げれば、確実に国民の信用を失ってしまう。

しかし、案の定すぐに、環境団体と電力業界が噛み付いた。
環境派にしてみれば、アルトマイヤー氏は再エネ推進を妨害するけしからん大臣だ。

一方、電力事業者の上部組織であるBDEW(ドイツ電気・水道連合)は、以前、メルケル首相が独断に近い形で脱原発を決めた時には、その性急さを責めたが、最近では、政府の対策のノロさに怒りを隠せない。
エネルギー政策の破綻はすでに明らかなのに、抜本的な修正が未だになされないからだ。

今年3月に第4次メルケル政権が始まった時、エネルギー転換の元祖、ライナー・バーケが辞めた。
バーケというのは緑の党員で、ここ20年近く絶大な力でドイツのエネルギー政策を主導してきた人物だ。
エネルギー転換の青写真は、彼が引いたと言っても過言ではない。

そのバーケ氏が撤退したため、ドイツのエネルギー政策が速やかに修正されるかと思われたが、そうはならず、政策はふらついただけ。
BDEWが痺れを切らすのも無理はない。

電力の自由化は、両刃の剣
さて、もう一つの話題。

現代ビジネス 2018/07/27
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/56733

※続きます