◆君が代判決 最高裁は起立斉唱を尊重した

入学式などで君が代の起立斉唱命令に従わなかった教員を、定年後に再雇用しなくても、違法とは言えない。
穏当な司法判断である。

起立斉唱せずに戒告などの処分を受けた東京都立高校の元教員らが、それを理由に再雇用を拒否されたのは不当だ、と損害賠償を求めていた。
最高裁は訴えを退け、元教員側の敗訴が確定した。

当時は、再雇用の希望者全員が採用されたわけではない。
判決は「選考で何を重視するかは任命権者の裁量に委ねられる」との見解を示した。

その上で、都教育委員会の対応が「著しく合理性を欠くとは言えない」と結論付けた。
再雇用した場合、元教員らが再び職務命令に反する可能性を重視した常識的な判断だ。

1審は、都教委の対応が「裁量権の逸脱で違法」だとして賠償を命じた。
2審もこれを支持したが、最高裁は覆した。

不起立については、「式典の秩序や雰囲気を一定程度損なうもので、生徒への影響も否定できない」と指摘した。
入学式や卒業式は、新入生や卒業生にとって一度しかない大切な儀式だ。
厳粛な式典で、教員らが調和を乱すような態度を取ることには到底、理解は得られまい。

日の丸・君が代を巡っては、「戦前の軍国主義の象徴だ」などとして、起立斉唱を拒む一部教員と学校側の対立が続いてきた。
都教委は2003年の通達で、式典で起立し、国歌を斉唱するよう教職員に義務付けた。
起立斉唱の職務命令に従わなかった多数の教員が処分され、命令の違憲性を争う訴訟が相次いだ。

最高裁は11年、職務命令は「思想・良心の自由を間接的に制約する面がある」と認めつつ、合憲との初判断を示した。
式典での秩序確保の必要性や、公務員の職務の公共性を鑑かんがみた結果だ。

年金の支給開始年齢の引き上げを受けて、都教委でも現在は、希望者を原則として全員、再雇用している。
そうであっても、都教委が「今後も職務命令違反については厳正に対処する」との姿勢を示しているのは適切である。

言うまでもなく、教員は児童生徒に手本を示す立場にある。
小中高校の学習指導要領にも、入学式や卒業式で「国旗を掲揚し、国歌を斉唱するよう指導するものとする」と明記されている。

東京五輪・パラリンピックを2年後に控える。
子供たちが、自国や他国の国旗・国歌に敬意を表する。
その意識を育むことが、教員としての当然の務めである。

読売新聞 2018年07月30日 06時05分
https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20180730-OYT1T50000.html