プロジェクトX〜挑戦者たち〜  イオンの挑戦。奇跡の味−本物のうなぎっぽい蒲焼の誕生

イオン首脳陣から、もっと利益率の高いうなぎっぽいものを作れと迫られていた。 思案に暮れていたとき、社長は意外な事を言った。
「パンガシウスを使ってみたらどうだろう」 工場長は戸惑った。 本物のうなぎからわけのわからない安い魚に変えたら蒲焼ではなくなってしまう。
「無理です。出来ません」工場長は思わず叫んだ。
「俺たちがやらずに誰がやるんだ。俺たちの手で作り上げるんだ!」
社長の熱い思いに、工場長は心を打たれた。そして、商人の血が騒いだ。
「やらせてください!」それから、夜を徹しての偽装うなぎ作りが始まった。省けるものは省きまくる毎日だった。
しかし、本物のうなぎの味は出せなかった。 工場長は、来る日も来る日もコストと戦った。
いっそ、セブン&アイホールディングスに転職すれば、どんなに楽だろうと思ったこともあった。 追い詰められていた。

そこへ社長が現れた。そしてこうつぶやいた。
「発想を変えるんだ。うなぎは味だけでうなぎなんじゃない」
そうだ。見た目だ。雰囲気とか見た目だけうなぎにする手があった。
暗闇に光が射した気がした。工場長は試しにパンガシウスに蒲焼のタレをかけてみた。うなぎ特有の香りが蘇った。
「これだ、これが探してた俺たちのうなぎなんだ!」見た目だけの偽装うなぎの蒲焼の誕生だった。

社長と工場長と従業員は、工場の片隅で朝まで飲み明かした。 工場長は、充足感に包まれ、涙が止まらなかった。
「社長、完成したうなぎを家族に食べさせてもいいですか」工場長は言った。
「ああ、いいとも。だが食べ過ぎるなよ。中身はパンガシウスのままだからな」 社長は自分のジョークに、肩を揺らして笑った。