S「でも、月面上は重力が地球上の1/6だから可能だ、とNASA(米航空宇宙局)は説明してるようですが」
A「重力が弱くても、空気がないから」
S「空気?」
A「月面では空気抵抗がない。だからパラシュートは使えない」
S「でも、とにかく重力が1/6だから、って、日本の宇宙開発関係筋も説明してますよ」
A「百歩譲って理論上可能だとしよう。でも、事前に実験してないよね」
S「え? いや、あの11号の着陸自体が実験みたいなものでしょう?」
A「ぶっつけ本番?」
S「ええ」
A「有人飛行で?」
S「有人?」
「ロシア(ソ連)のルナ2号は無人宇宙船だったから、軟着陸に失敗して月面に激突してもどうってことなかった」
S「激突したんですか」
A「もちろんだ。ロシア人の宇宙飛行士はみんな苦笑しながら認めたよ」
S「じゃあ、失敗なんですか」

A「無人だから軟着陸できなくても人は死なないし、とにかくロシアが先に宇宙船を月に到達させたという実績は残る。だから失敗じゃない。
 でも、米国の場合は有人飛行だから、失敗して激突すれば宇宙飛行士が死んで、米国の威信は地に落ちる……というか、月に落ちる(笑)。
 そんな危険なことを、事前に予行演習もせずにやれるかね?」
S「しかも世界中で生中継してますからね」
A「そうだよ。地球上でも月面上でも一度も成功していないアポロの『お尻噴射型』垂直着陸を、
 人を乗せて、ぶっつけ本番で国家の威信を賭けて、全世界に生中継しながらやったんだ。
 もし失敗して宇宙飛行士が死んだら、全世界に『死んだ』というニュースが流れる。
 イチかバチかの大ばくちだ。会社の経営なら(当時のNASA幹部は)背任罪じゃないの?」
S「なるほど。そう考えるとありえないですね」
A「ありえないよ、絶対に、国家の威信を賭ける場面では」
S「でも、なんでソ連はいままで黙ってたんですか。アポロ11号の『成功』直後に『できっこない』って言えば……」
A「そんなこと言って、だれが信じる?」
S「信じるでしょ、みんな?」
A「ロシアの言うことなんて西側のマスコミは信じないよ、とくに当時はソ連だったから」
S「でも、米国の言ってることを『科学的に不可能』って証明することはできますよね」
A「一般大衆は専門知識がない」
S「西側の科学者にはあります」
A「当時のソ連には言論の自由も学問の自由もなかった。国営放送は大凶作でも『豊作』って報道するし、
 学者も……たとえばルイセンコなんていうヘンな学者が独裁者スターリンを後ろ盾にしてデタラメな遺伝学を唱えたりしてた。
 ソ連は国内的にも対外的にもウソをつき続けてたんだ、『社会主義体制のもとで、人民はみんな幸せ』ってね」