共産党一党独裁のキューバが憲法を大幅に改正する。外国からの投資について「経済発展の重要な要素」と明記、経済の自由化を一段と進める。革命を指導したカストロ兄弟の時代の終幕をにらみ、大統領、首相のポストを新設して集団指導体制を固める。2019年2月の国民投票を経て発効する見通しだ。

 キューバでは4月、ラウル・カストロ氏(87)が国家元首の国家評議会議長から退き、ミゲル・ディアスカネル第1副議長(58)が昇格した。ラウル氏は共産党トップの第1書記に21年までとどまるが、新世代へ権力を速やかに移譲するため憲法を見直す。

 草案は国会にあたる人民権力全国会議で決定済み。11月15日まで各地の職場などを通じ、数万回もの集会で説明される。その後、国民投票にかかるが、共産党一党支配のキューバでは、圧倒的多数で承認されるのが確実とされる。

 目立つのは経済自由化の姿勢を一段と鮮明にしたことだ。革命の精神とされた「共産主義の追求」を削除する一方、外資を経済発展に欠かせない要素と定義。外国企業にも私有財産を認め、進出を促す。国家主導の計画経済という社会主義の基本は堅持するが、市場経済が重要だと認めたうえで、民間企業や個人の財産所有を容認する。

 キューバは経済特区やホテル建設などで外資を受け入れているが、実際の投資額は同国政府が必要とする金額の3割程度にすぎないとみられている。民間企業の自由な活動を憲法で保障し、低迷する経済のテコ入れにつなげる考えだ。

 米中央情報局(CIA)によると、キューバの実質成長率は17年が1.6%。前年の0.5%から加速したが、17年1月のトランプ政権成立で対米関係改善に向けた動きは事実上停止。観光目的での米国民のキューバ渡航が禁止され、18年1〜3月はキューバの外国人観光客の受け入れ数が前年同期より7%減った。経済自由化への姿勢を明確にし、対外関係の改善を目指す思惑もある。

 政治体制では大統領と首相のポストを新設する。いまの国家評議会議長に代わり、大統領が国家元首となる。任期5年で再選は1回だけと明記する。首相の役割は「国政をつかさどる」ことと定義され、日常の政権運営は首相が担当することになりそうだ。キューバ指導部から「カストロ」の名が消える状況を想定し、複数のポストに権力を分散する体制を構築する狙いとみられる。

 人権にも配慮する。人種や性別だけでなく、同性愛者など性的少数者や障害者、民族による差別も禁じると規定する。婚姻は従来、男女によると定義していたが、今回の改正では「個人同士」とされ、同性婚が事実上、容認されることになる。

 現行憲法は旧ソ連と緊密だった1976年、ラウル氏の兄の故フィデル・カストロ元国家評議会議長が主導して制定。78年、92年、02年にそれぞれ一部が改正された。今回は全137条項のうち現状維持が11条項。113条項を改正し13条項は削除する。新たに87条項を加える。事実上の全面改定といえる。

日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO34630800X20C18A8910M00/