背景に若者の意識変化
都市生活に満足できず田園回帰の動きが出るなど、農村へのあこがれが、若者たちを農学に引き寄せているように見える。内閣府の調査(2014年)では、20歳代男性で農村定住の意欲が高いことが明らかになっている。地方移住をテーマにしたセミナーや相談会への参加者も増加傾向だ。「大都市に住んで普通の会社に勤めるのが当たり前」という価値観が薄れ、地域に自ら出向き、グローバル課題に挑戦できる農学に関心が集まるようになった。

もう1つ学生人気の背景にあるのが食品産業の伸長だ。食品産業の国内生産額は平成に入った1989年に79兆円だったが、2016年には99兆円まで拡大した。特筆できるのはその安定ぶりだ。10年前のリーマンショック後の2009年、国内産業全体の生産額は景気後退で前年に比べて11%減少したが、食品産業に限れば横ばいで持ちこたえた(農林水産省「農業・食料関連産業の経済計算」)。

「産業は業種によって浮沈が伴う。しかし、食べ物に関した産業は浮き沈みが小さい。将来のキャリアを考える若者たちにとって、食品産業の魅力が高まっている。農学部に学生が集まるのは、就職に有利という現実的な理由もあるだろう」と生源寺教授は解説する。

農学部の変化で注目すべきなのは、女子学生ノケジョの増加だ。文科省の調査では2017年の女子学生比率は45%と半数近い。筆者は40年以上前に農学部に在籍した。当時はクラスに一握りしか女子学生はいなかった。8年前から首都圏にある大学の農学部で兼任講師として教えているが、確かにキャンパスの光景は様変わりだ。

この間の変化は学生数だけではない。教室で前の席に座るのは女子学生。手を挙げるのも女子学生。成績が上位なのも女子学生のような気がする。とにかく元気なノケジョが目立つ。時折「頑張れ男子学生」と叫びたくなるほどだ。

龍谷大学農学部教務課の糸井照彦さんは「国家資格の管理栄養士を目指す食品栄養学科の場合、女子学生の比率は7割以上。農学部というと第1次産業というイメージがあったが、食ビジネスにまで対象が広がり、女子学生にも魅力的になった。これは全国のトレンドではないか」と話す。獣医師系の学科でも女子学生比率は高い。農学部が男の世界という時代は、完全に過ぎ去ったと言えるだろう。