築地市場では60年以上前、日本の食を揺るがした“事件”があった。今もその行方がミステリーとされる「原爆マグロ」が持ち込まれたのだ。

 昭和29年3月16日、「第五福竜丸」が漁獲した魚などが築地市場に運ばれてきた。米国が太平洋のマーシャル諸島ビキニ環礁で実施した水爆実験で「死の灰」を浴びた魚は、検査で放射性物質に汚染されていることが判明。複数の魚種を含めて、原爆マグロと称されるようになった。

 原爆マグロはせりにかけられず、市場内の一角に埋められた。その量は約2トンともいわれる。無関係の魚もせりが不成立になるなど築地市場に大打撃を与え、周辺の飲食店の売り上げも下がった。

 原爆マグロの行方は不明のままだ。平成8年、都営地下鉄大江戸線の建設工事を受けて、都はマグロが埋められたとされる正門付近を発掘したが、骨などの痕跡は見つからなかった。周辺の放射線量に異常はなかったという。

 「ほかに埋めた場所がある」「すでに敷地からは無くなっている」。関係者の間でもさまざまな意見が飛び交っている。

 跡地利用に向けて、閉場後間もなく始まる解体工事では、建物に使われたアスベストを除去する必要がある。こちらも歴史を重ねたゆえの「負の遺産」だ。都によると、アスベストが使われた場内の施設は55棟。周辺の飲食店や住民からは飛散などの懸念も出ているが、専門業者に処理工事を発注して万全を期している。

 業者は飛散防止剤を使用しながらアスベストを除去。粉塵(ふんじん)計を使い、数値に問題がないか常時監視を行う。また、騒音対策として振動の少ない重機を使うとしている。
https://www.sankei.com/smp/life/news/181006/lif1810060031-s1.html