9月の北海道地震や台風21号など今夏に相次いだ自然災害で、小売店のレジなどをATM(現金自動預払機)代わりにして預金を引き出せる「キャッシュアウト」と呼ばれるサービスが注目を集めている。1台当たり月数十万円とされる維持費がかかるATMの代替としての役割のほか、停電などで現金を使わない「キャッシュレス決済」ができなくなった場合に顧客が必要な現金を確保できるからだ。しかし、思うように普及は進んでいない。(林修太郎)

 太平洋に浮かぶ伊豆諸島の八丈島(東京都八丈町)。キャッシュレス決済の導入は都心部より遅れているが、キャッシュアウトの先進地域として注目される。

 キャッシュアウトは大手銀行や地方銀行でつくる「日本電子決済推進機構」が運営し、買い物の代金を銀行の預金口座から即時に引き落とすデビットカードの機能を活用。利用者は店でデビットカードを示して必要な金額を伝え、暗証番号を入力すれば現金を受け取れる。平成29年4月の銀行法施行規則改正で可能になり、今年4月にサービスが始まった。

 同島にはATMが少なく、夜などに現金を引き出す手段が乏しい。このため、観光客らが消費を控えるケースがあり、八丈町や島内に出張所を持つみずほ銀行などが連携して導入。ホテルや飲食店、タクシーなどで最大3万〜5万円引き出せる。地域ぐるみで利用できる八丈島のような試みは珍しいという。

 災害に強いのもキャッシュアウトの特長だ。無線で情報をやりとりするモバイル端末があれば稼働するため、停電などでATMやクレジットカードが使用できない場合も現金を調達できる。

 首都圏でも、来春には東京急行電鉄と横浜銀行などが預金口座を登録したスマートフォンのアプリを使って、駅の券売機でデビットカード不要のキャッシュアウトサービスを始める。アプリで必要金額を入力すると表示される2次元バーコード「QRコード」を、券売機の読み取り機にかざし、現金を引き出す仕組みだ。交通系ICカードによるキャッシュレス化が進む中、券売機の有効利用に踏み切る。

 ただ、キャッシュアウトの利用可能店舗は現在、本州にあるイオンの63店舗と八丈島ぐらいだ。店側はある程度の現金を常に用意しなければならず、現金管理コストがかさむだけでなく、店員が利用者に手渡す金額を間違う恐れもあるため、導入に及び腰だ。

 キャッシュアウトは一見、キャッシュレス化に逆行するサービスだが、野村総合研究所の宮居雅宣(まさのり)上級コンサルタントは、周囲に金融機関やATMが少ない地方の方がメリットは大きく、普及しやすいと指摘する。その上で「キャッシュアウトが根付けば、現金を持ち歩かないことへの抵抗感が薄れ、結果的にキャッシュレス化に寄与する」と分析した。

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2018.10.10 19:16
産経ニュース
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