【深セン(中国)赤間清広】中国の通貨・人民元の下落ペースが加速している。中国人民銀行(中央銀行)は30日、対ドル取引の基準となる「基準値」を1ドル=6.9574元と2008年5月以来、約10年半ぶりの元安水準に設定した。米中貿易戦争の激化に伴い中国からの資金流出懸念が拡大する中、元を買い戻す材料は乏しく、1ドル=7元の大台突破が近づいている。

 元相場は、今年に入り一時1ドル=6.2元台まで高騰したものの、米中の貿易摩擦が深刻化した今春以降、元安が一気に進む。人民元の相場形成には中国当局の意向が強く反映される。人民銀は「元相場の動きは世界的なドル高など複合的な要因によるものだ」と意図的な元安誘導を否定するが、市場には「貿易戦争の影響緩和のため、中国当局が輸出産業に有利な元安を容認している」(アナリスト)との見方が広がっている。

 ただし、元安が中国経済にもたらすのはメリットだけではない。15〜16年にかけて進行した元安局面では、中国経済の先行き不安から国内資金の海外流出が加速。当局は元相場を安定させるため、巨額の外貨準備を取り崩して元買い・ドル売りの市場介入を繰り返す事態に追い込まれた。

 米国との貿易戦争などで中国経済の減速基調が鮮明になる中、一度は落ち着いた資金の海外流出が再び顕在化しつつある。人民銀は過度な元安の加速には「積極的に対応する」(潘功勝副総裁)と市場をけん制しているが、アクセルとブレーキを同時に踏むような人民銀の為替政策には市場の批判も強く、元相場をどこまでコントロールできるかは見通せない。

 トランプ米政権は中国の元安政策を強く批判し、その不満が貿易戦争を招く原因ともなった。元安の加速はトランプ氏に絶好の対中批判の材料を与えることにもなり、泥沼化する貿易戦争の解決を一層、遠ざけることにもなりかねない。

毎日新聞2018年10月30日 21時01分(最終更新 10月30日 21時01分
https://mainichi.jp/articles/20181031/k00/00m/020/070000c