従軍慰安婦問題で日本政府と産経新聞社、そして自称保守界隈が巻き起こした「歴史戦」は内向きのアピールと外交を混同し、韓国のみならず台湾やアメリカ合衆国でも軋轢を起こしてきました。今回もまた同じ道に進もうとしてはいないでしょうか?詳細は以下から。

◆徴用工裁判の最高裁判決と日本政府の激烈な反応
10月30日、韓国大法院が韓国が日本の植民地支配下にあった時代の元徴用工を巡る上告審で、新日鉄住金に対してひとり1000万円の損害賠償を命じる判決を出したことは日本国内で大きな波紋を呼びました。

上告審で被告の新日鉄住金は「原告の請求権は日韓請求権協定の締結によって消滅した」と主張。安倍首相も判決を受けた直後に「この問題は1965年の日韓請求権交渉で完全かつ最終的に解決した」と同様の認識を示し、「国際法に照らしてありえない判断」と批判しています。

河野外相も「判決は日韓の友好関係を根本から覆すものだ、韓国政府は直ちに必要な措置を取ってもらいたい」と抗議。在外公館に対して韓国の国際法上の不当性を積極的に駐在国に説明するよう指示を出し、国際裁判も含めて検討するとの立場を取っています。

ただし、新日鉄住金は当時の佐久間常務が2012年の株主総会で韓国大法院の判決について「法律は守らなければならない」と述べ、司法が命じた場合には賠償金を支払う考えを明らかにしていました。

ですが、京都新聞は10月31日の朝刊で「新日鉄住金の検討状況が報道で明るみに出ると、日本政府では「協定が骨抜きになる」(外務省関係者)と反発が強まった。韓国側との安易な妥協に難色を示した菅義偉官房長官らの主導で、同社は敗訴が確定しても従わない方針にかじを切らざるを得なかった」事を指摘しています。

つまり、今回の判決に反発しているのは新日鉄住金というよりむしろ日本政府だということになります。

◆日本政府は「個人の請求権」は消滅していないと明言
日本政府は上述のように「この問題は日韓請求権交渉で完全かつ最終的に解決した」という立場を取っていますが、個人の請求権について日本政府は過去にこれとは全く違う認識を示しています。

1991年8月27日の参院予算委員会で柳井俊二外務省条約局長(当時)は個人の請求権について
(前略)いわゆる日韓請求権協定におきまして両国間の請求権の問題は最終かつ完全に解決したわけでございます。
 その意味するところでございますが、日韓両国間において存在しておりましたそれぞれの国民の請求権を含めて解決したということでございますけれども、これは日韓両国が国家として持っております外交保護権を相互に放棄したということでございます。したがいまして、いわゆる個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではございません。日韓両国間で政府としてこれを外交保護権の行使として取り上げることはできない、こういう意味でございます。

(121 - 参 - 予算委員会 - 3号 平成03年08月27日より引用)
と述べ、個人の請求権は消滅していないという認識を示しています。これは国対国での請求権は消滅したものの、個人が企業に請求を行うという今回のような事例については対象外となる事が分かります。

全文
https://buzzap.jp/news/20181121-what-are-the-facts/
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