この10月、全世界で30万人を雇う日本有数のグローバル企業、日立製作所から解雇通告を受けたフィリピン人技能実習生が、労働組合に入って団体交渉に打って出ました。
賃金補償の獲得が第一の目的でしたが、背景には実習内容への強い不満がありました。

団交に訴えて出たのは、新幹線や英国の高速鉄道車両などを作る日立の笠戸事業所(山口県下松市)で働く実習生たちです。
工場には約270人のフィリピン人実習生がいて、全従業員約1800人の約15%を占めています。

制度上、勤め先や住まいを変える自由はありません。
仕事を失うことを恐れるため、取材に応じてくれるのは匿名が条件の場合ばかりです。

実習生は毎朝、工場の近くにある寮から自転車で出社してきます。
一斉出勤の姿は壮観です。自転車の前かごには、もれなく3けたまでの大きな番号札が付いています。

実習生によると、自転車は、実習先の紹介のほか、生活相談や実習状況の監査もする「監理団体」から貸し出されているもの。
番号札は自転車を管理するためで、実習生と日本人従業員とは通勤経路も分けられているそうです。

「番号付きの自転車なんて恥ずかしいけど、毎朝決まったルートで整然と出勤しないといけないんだ」と実習生の一人、Aさん(23)は話します。
実習生たちは「けさは○○番がトップだったね」と、競輪に例えて冗談をよく言い合うそうです。

“競輪遊び”に興じる理由について、Aさんはこう言いました。
「僕たちは日本人に管理された『2級市民』のようなものなんでしょう? だから、とにかく明るく、笑う」

実習生が日立と結んだ契約書によると、実習生の時給は山口県の最低賃金(輸送用機械器具製造業)に5円足した888円。
残業をすると月給は約15万〜18万円になり、所得税や年金保険料、寮費などを引かれると、手取りは約9万〜12万円です。

実習生はここから母国の家族に仕送りをしています。
来日の際に親戚から借金した人が多いためです。

母国では監理団体と提携する訓練学校に通わなければならなかったため、その学費の借金・十数万〜30万円も抱えています。
こちらも毎月1万〜1万5千円ずつの返済があります。

残る生活費は毎月「1万円」という実習生は珍しくありません。
寮の部屋で炊飯器でご飯を炊き、缶詰などをおかずに食卓を囲みます。実習生のBさん(26)は「日本のお米はおいしい」。

今回、団交に至った背景には、そもそも実習内容への不満がありました。
笠戸事業所の実習生は主に配電盤や制御盤を作る「電気機器組み立て」や、手作業の「溶接」の技能を習得するのが目的です。
しかし、車両への窓やパイプの取り付けといった、目的の技能とは違う作業ばかりさせられている――と実習生たちは主張しています。

国側は日立側を行政処分するかどうか検討中のため、笠戸事業所の実習生について入国2年目以降の実習計画を認めていません。
そのため、実習生たちは日本での在留資格を失うことになり、日立は9〜10月、実習生40人に解雇を通告しました。
「そもそも日立がいいかげんな実習をしていなければ、こんな事態にはならなかった」と訴え、個人加盟の労組に加入し、団交を求めたのです。

団交の結果、年内は日本に滞在中なら毎月約10万円の賃金補償を得られることになりましたが、日立は年内に在留資格の更新が来る59人についても11月に解雇を通告しました。

帰国まで寮費の引き去りや借金返済は続くため、最近は「1日1食」に削っていると話す実習生もいました。
そんな彼らに「日本に来たことを後悔していないか」と聞くと、「とんでもない」と笑います。

日本のアニメが字幕なしで分かるようになった、生活は楽ではないが日本の治安はすばらしい、技能があれば母国で職につけるかも――。
とても前向きで、たくましい印象を受けました。

Cさん(24)はこう答えてくれました。
「日本に労働力が必要なのは実感したし、日本がより開かれる国になるというのは外国人にとって悪くない話。
ただ、お金ほしさの強欲に悪用されないか心配だ。外国人でもきちんと権利が認められるような仕組みにしてほしい」

(写真)番号札のついた自転車に乗るフィリピン人実習生ら=山口県内
https://s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/storage.withnews.jp/2018/11/14/d/df/ddf1b191-l.jpg

※一部引用しました。全文はソースでどうぞ
https://withnews.jp/article/f0181120000qq000000000000000G00110101qq000018356A