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「狭小」の賃貸住宅が、東京都心を中心に人気を集めている。新築で設備が整っていれば、3畳の部屋でも十分快適だという人が増えているのだ。背景に「必要なモノさえあればいい」という暮らし方の変化もありそうだ。

■「広さ」より「駅近」

 国土交通省によると、健康で文化的な生活を営む基礎として必要不可欠な「最低居住面積水準」は単身者で25平方メートルとされている。

 これに対して、狭小賃貸は、「15平方メートル以下を狭小物件と表現することが多いようです。肌感覚的には12平方メートル以下かもしれません」と教えてくれるのは「城南コミュニティ」(東京都品川区)の代表取締役、並河宏明さんだ。

 同社は、都内を中心に家賃6万円以下の賃貸物件を紹介する専門店「部屋まる。」を運営している。「以前は経営者、医師など働く時間が不規則な人が職場近くに借りるセカンドハウスを探すために利用されていました」と並河さん。 だが、最近注目を集めているのは、新築で設備の整った物件だという。

 インターネットの住宅情報サービス「スーモ」の田辺貴久副編集長も「昔の物件は、四畳半で風呂やトイレは共同。下宿の延長や学生が住むためにありました。ところが、3〜4年前からは設備の整った新しめの物件が話題になるようになりした」という。

 家賃が相場に比べて安いだけでなく、「駅近」や「風呂トイレ別」など賃貸選びに重視される条件を満たしているという。また、ロフトがある物件が多く、「天井の高さやロフトもあり、それほど狭く感じないような作りです」と田辺副編集長。

■入居率99%!

 床面積9平方メートル(6畳弱)の賃貸物件に特化したアパート「ククリ」シリーズの開発に力を入れているのが「スピリタス」(港区)だ。平成24年の設立ながら都内で70棟超を供給。人気エリアの駅から徒歩10分以内が基本で、入居率は常に99%超。広報の木本理恵さんは「相場より安く住めるため、20〜30代の社会人や学生に好評です」。たとえば、恵比寿の物件だと家賃は7〜8万円と相場より1〜2万円低いという。

 ククリは、居室部分は3畳ほどだが、天井は3・6メートル。ロフトから天井まで1・4メートルあり、圧迫感はない。

 「ホテル仕様を意識」したのが水回り。浴槽はないがシャワー室を備え、床は乾きやすい素材を使い、掃除のストレスを軽減した。


■「気にならない」

 アルバイトの神田羽蘭(うらん)さん(21)は、都内の駅から徒歩7分にある、ククリシリーズの物件に10月から住んでいる。床面積は9平方メートル、家賃は管理費込みで6万4000円。居室内は端から端まで5歩程度だが、「広さにこだわりはありませんでした。狭いかな、と思ったけれどすぐに慣れました」と神田さん。

 作曲の仕事を目指している神田さん。居室の作業用机には作曲に使う鍵盤楽器。ロフトに向かうはしごの下には衣装ケースが重ねてある。テレビはなく、「パソコンとスマホでネット番組しか見ません」。ロフトが“寝室”だ。

 冷蔵庫と電子レンジはあるが自炊はせず、食事は外食かスーパーの総菜で済ます。浴槽はなくシャワー室だけだが、「実家でも、月に1回浴槽につかるくらいでした」。狭いので掃除もすぐに終わる。「1人暮らしなら、私にはここが最適かな」と笑顔を見せた。

■今、必要なモノで暮らす

 狭小賃貸が注目される背景には、価値観の変化も影響しているようだ。スーモの田辺副編集長は「必要なモノだけあればいいという価値観の人にマッチしたのではないでしょうか」と分析する。

 洗濯機がなくても最近はコインランドリーが充実し、洗濯代行サービスもある。都心ならコンビニエンスストアが至るところにあり、冷蔵庫代わりに使うことも可能だ。総菜を扱う店も増えている。洋服は季節ごとにインターネットで売り買いするという若い人も。荷物のない暮らしが実現できる時代になっているのだ。

 田辺副編集長は、「暮らしの分散が可能になってきています。家に求めるものが、安眠と最低限の荷物が置けること、郵便物がちゃんと届くことになってきているのではないでしょうか」と話している。

11/28(水) 9:51
産経新聞
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