有価証券報告書の虚偽記載罪というのは、「虚偽の記載をすること」が犯罪なのではなく、
重要な事項について虚偽の記載がある有価証券報告書を「提出」することが犯罪とされる。
それを正確に記載して「提出」する義務を負う作成名義人は、日産の場合であればCEOであり、
2017年3月期以降は、西川氏である。上記のように、
西川氏の「退任後の報酬の支払」についての認識がゴーン氏らと大きくは変わらないとすると、
直近2年分については第一次的に刑事責任追及の対象となるのは西川氏である
(ゴーン氏のように報酬によって利益を受ける立場ではないが、CEOとして報告書に真実を記載すべき義務に反した刑事責任は重大だ。)。

 つまり、直近3年分の有価証券報告書の虚偽記載を立件するのであれば、西川氏刑事立件は避けられないし、
ゴーン氏らを再逮捕する必要があるのであれば、西川氏を逮捕しない理由はない。

西川氏は検察との「闇取引」の批判に耐えられるか
 そこで、「司法取引」という見方が出てくるだろう。西川氏が、ゴーン氏、ケリー氏という「他人の犯罪」について捜査協力したとして、
検察との間で司法取引が成立し、刑事処罰を免れることがあり得るか。 

 たしかに、検察との間でゴーン氏らだけを「狙い撃ち」にする「闇取引」ができていることは考えられなくもない。
しかし、仮にそうだとすると、ゴーン氏逮捕直後の会見で、西川氏は、自らも有価証券報告書虚偽記載について重大な責任あがるのに、
それを棚に上げて「憤りを覚える」とまで言ってゴーン氏を非難したことになる。西川氏に対して、激しい非難が国内外から沸き起こることは必至だ。
さらには、その西川氏が議長としてゴーン氏らの代表取締役会長職の解職を決定した臨時取締役会の議決の効力にも影響することになる。

 直近3年分の虚偽記載でゴーン氏、ケリー氏を再逮捕するのであれば、西川氏も逮捕し、その刑事責任を問わざるを得ない。
しかし、それは、西川社長が中心となってクーデターを仕掛けてゴーン体制を覆した日産現経営陣の「事実上の崩壊」につながる。

そして、それは、その日産経営陣と緊密な連携をとって行われてきた検察の捜査をも「崩壊」の危機に至らせることになる。

https://news.yahoo.co.jp/byline/goharanobuo/20181209-00107155/