産業革命か打ち上げ花火か

ドイツメディアが日本車を褒めるということは、極めて稀だ。ところが、日産の電気自動車「リーフ」がEUに上陸したとき、ドイツのメディアが控えめに褒めた。つまり、これはほとんど「絶賛」に等しい。
あんまりびっくりしたので、私のように車に興味のない人間でさえちゃんと覚えているほどだ。日産の、いや、日本の電気自動車の技術は、おそらく世界中でも超一流なのだろう。
一方、今、ヨーロッパのメーカーで電気自動車というと、真っ先にルノーという名が挙がる。
もう20年以上も前のことだが、幼稚園に迎えにきている母親の一人が白い小さなルノーに乗っていた。車体に曲線が少なく、なんだか冷蔵庫のような車だと思った。合金を曲げる部分を減らせば生産コストが下がり、安い車ができるのだとあとで聞いて、妙に納得したものだ。
当時、ドイツ人がルノーと聞いて連想したのは、「労働者がストばかりしている、なんだか効率の悪そうなフランスの国営会社」だった。実際にはF1で活躍し、今や様々なスポーツカーを世に送り出してもいるが、それでも、ドイツの自動車市場には自国製品の選択肢が豊富にあるため、ルノーの入り込む隙間はあまりない。
一方、ルノー車の新興工業国への輸出は伸びている。ただ、購買力平価(各国の換算物価がほぼ均等になる為替レート)で見た世界経済力ランキングでドイツに遠く及ばないフランスが、ドイツと同じユーロレートで競争するのは明らかに不利だ。つまり、いくら売っても儲けにつながらないというジレンマがある。
ドイツが、自国の経済力にとっては安いユーロレートで儲け過ぎているのとは正反対の現象で、マクロン大統領の歯ぎしりが聞こえてくるようだ。彼が、何が何でもユーロ圏における財政統合を進めようと躍起になっているのは、そういう尤もな理由がある。

ところが、そのルノーの電気自動車が、ヨーロッパでは雄なのだ。
その陰には、傘下の日産の多大な功績があっただろうということは想像に難くないが、いずれにしても、「電気自動車ならば、自動車大国ドイツの優勢を覆すことも夢ではなくなった」と、そうフランス政府が考えたとしても不思議ではない。ルノーの筆頭株主はフランス政府である。
そのせいか、フランスは電気自動車普及に向かって、信じられないほど前のめりだ。すでに去年、2040年までに国内においてガソリン車もディーゼル車も販売を禁止すると発表している。産業革命の宣言に等しい。
ただ、それまでに本当に給電スタンドが完備するのか、バッテリーの供給が追いつくのか、わからないことが多過ぎる。しかも電気自動車は、ガソリン車やディーゼル車よりも簡単に作れるので、関連会社が少なくて済む。これまでの自動車産業が抱えてきた膨大な雇用を到底吸収できない。
そう考えれば、この宣言は実は産業革命ではなく、単なる政治的な打ち上げ花火かもしれない。(以下省略)
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ソース/現代ビジネス
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58849