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【浦河】国内有数の馬産地・日高管内浦河町でインド人が急増している。
競走馬を調教する騎乗員として100人以上が町内の牧場で働き、今や欠かせない戦力だ。
改正入管難民法の来年4月施行を前に、各地の自治体や職場で外国人の受け入れ態勢が課題となる中、
人口1万2千人余りの浦河町では、インド人労働者のための生活環境整備が待ったなしだ。

11月上旬の朝、町郊外にある日高育成総合施設の軽種馬育成調教場。屋内坂路で訓練する1歳馬の一団が駆け抜けた。
手綱を握るのは町内大手の育成牧場「吉沢ステーブル」の黄色いジャンパーを着た十数人。ほぼ全員がインド人だ。

同牧場は2015年、浦河町内の牧場で初めてインド人男性を複数人採用した。
その後も騎手や厩務(きゅうむ)員の経験者らを雇い入れ、現在は浦河で働く従業員の3分の1に当たる20人に上る。

騎乗員は専門性の高い肉体労働で、日本人のなり手不足が深刻な課題だ。
場長の広島剛さん(47)は「日本人の若手を騎乗員に育てるには5年かかる。
インド人は即戦力で大切なパートナー」と話す。

盛んな競馬、確かな腕

かつて英国の植民地だったインドは競馬が盛んで、インド人男性らは母国やアラブ首長国連邦で調教師をしていた。
腕は確かで働きぶりも真面目。浦河では15年ほど前から外国人騎乗員が働き始め、
当初はフィリピンやマレーシアの出身者が多かったが、15年以降は急速にインド人の評判が広まった。

今年10月末現在、町の外国人登録者198人のうちインド人は最多の114人を占める。
町内で競走馬育成を手がける牧場約30カ所の9割で、20〜40代のインド人が活躍している。

インドの競馬関係者にとっても、給料が母国の3倍近い浦河での就労は魅力的に映るようだ。
改正入管法で議論された単純労働分野の14業種と異なり、熟練度の高い「技能」の在留資格を取得。
1〜3年の在留資格者が大半で、単身で働いて帰国する。「給料をためて母国で家を建てる」など日本永住を望まない人が多く、
町は「改正入管法の影響はあまり受けないだろう」(町民課)とみる。

ただ、浦河以外の日高管内4町では10月末現在、計95人のインド人が外国人登録している。
浦河職安管内で牧場従業員を含む「養畜作業員」の10月の有効求人倍率は11・39倍。
優秀な外国人の争奪戦になる可能性もあり、生活面の支援がますます重要になっている。

社宅を用意、食材も調達

吉沢ステーブルは社宅を用意し、主食の薄焼きパン「チャパティ」の原料や香辛料を独自に調達。
市街地のスーパーに行く際は世話役の日本人従業員が車を出す。
昨春から働くナグ・シーング・ラトールさん(22)は「稼ぎも良く、困っていない」と納得の表情だ。

町内の辻牧場は、雇用するインド人2人のうち、イザール・アラムさん(34)が暮らす民間アパートに公衆無線LAN「Wi―Fi」を設置した。
母国に妻子を残すアラムさんは「携帯電話の無料通話アプリで毎日家族と話す。不安なく仕事に打ち込める」と笑う。

6月には池田拓町長が東京の在日インド大使館を訪れ、生活支援の取り組みを相談。
紹介を受けた日印両国の事情に詳しい在日インド商工協会(横浜)の役員に町内に来てもらい、
インド人から「町内で長粒米や香辛料を買えるようにしてほしい」などの要望を聞き取った。

さらに言葉の壁の解消に向け、町は10月から東京の通訳会社のサービスを試験導入。
インドの公用語・ヒンズー語など12言語の通訳者とインターネットで電話できるタブレット端末を役場窓口に置き、
納税手続きや生活相談に役立てる意向だ。日本の交通ルールを学ぶ講習会も開いた。

浦河は都市部と比べ留学や観光目的の外国人に会う機会が少なく、不安を感じる町民もいるという。
辻牧場の辻啓太さん(42)は「浦河に来たインド人はおとなしく仲間思い。
互いの文化や気質を知る機会があれば分かり合える」とみる。

町内の老舗映画館「大黒座」館主の三上雅弘さん(67)は年明け以降、
20年前に日本でヒットしたインド映画「ムトゥ 踊るマハラジャ」を上映し、
期間中に在住インド人を集めた交流会も計画する。協力する浦河観光協会の上新雅人事務局長(55)は
「インドでは映画に合わせて観客が踊って歌う鑑賞スタイルがあると聞く。町民と楽しみ、町の活性化にもつながれば」。
雇用主の理解を得て、町などに働き掛ける考えだ。