被爆者健康手帳の申請を長崎市が却下したのは違法だとして、韓国在住の元徴用工の男性3人が市などに処分の取り消しなどを求めた訴訟の判決が8日、長崎地裁であった。

 武田瑞佳裁判長は3人全員の却下処分を取り消し、市に手帳の交付を命じた。

 3人はいずれも90代。徴用された長崎市の三菱重工業長崎造船所で被爆したと訴え、2015〜16年に市に手帳交付を申請したが、被爆を裏付ける証人や記録がないなどとして却下された。裁判では、原告側が原爆投下時の体験を詳しく証言するなどして「被爆者に該当する」と訴えたのに対し、市側は「供述は信用性に欠け、裏付ける証拠もない」などと反論していた。

 判決は、原告の証言について「一貫しており、来日から被爆に至るまでの経緯にも不合理・不自然な点はない」と認定。「原爆投下から70年以上が経過している。証拠がないとしても不自然ではなく、供述の信用性は肯定できる」と結論づけた。

 韓国で支援者からの電話を受け判決を知らされた原告の一人、金成洙(キムソンス)さん(93)は「自分の言ったことを信じてもらえて、手帳をもらえるようになってうれしい。生涯でこんなにうれしかったことはありません」と話した。長崎市の田上富久市長は「判決の詳細を確認した上で今後の対応を検討したい」との談話を出した。

■審査のあり方、見直し期待も

 被爆の証拠集めが困難になる中で、本人の証言を重視して被爆者手帳交付を命じた長崎地裁判決。「証言だけで被爆者と認められた。長崎市は真摯(しんし)に受け止めてほしい」。弁護団からは審査のあり方の見直しを期待する声があがった。

 原告3人のうち金成洙(キムソンス)さんと李寛模(イグァンモ)さん(96)は昨年6月、来日して本人尋問に出廷。当時の体験を「寮の2階で4、5人で話していて、突然夕焼けのように空が赤くなり、ドカーンと音がした」などと具体的に証言した。ほかの資料と明確な齟齬(そご)がなく、話に矛盾がないことなどから「信用性が高い」と認められた。

 市は手帳交付の審査で、証言を裏付ける記録や証人を重視してきたが、判決は「関係者が死亡したり、その他の証拠が散逸したりすることも十分にあり得る」と言及した。弁護団の中鋪(なかしき)美香弁護士は「日本人でも証拠がなくて手帳をもらえていない人がいる。長崎市は認定のあり方を見直してほしい」と話した。

 17年8月には、三菱重工業長崎造船所に徴用された朝鮮半島出身者とみられる約3400人分の名簿を、長崎地方法務局が1970年に廃棄していたことが発覚。原告側は、有力な証拠になりうる資料が失われたと批判していた。(田中瞳子)
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