シリコンバレーの起業家や投資家が熱心に訴えるユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI)の実現が進まない。データを取るための社会実験は相次いで中止され、導入までのハードルはいまだ高いままだ。

シリコンバレーはユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI=全国民向け最低所得保障)というアイデアに大賛成だ。テック業界の大物たちが、UBIは自動化による失業対策になると盛んに宣伝している。

UBIとはすべての市民が、その収入や雇用状態に関わらず、政府から一定金額を受け取ることで衣食住を賄うというアイデアだ。この最低所得を補うのが、仕事で稼ぐ給料だ。UBIの支持者は、UBIが仕事を見つける柔軟性を人々に与え、セーフティネットを補強し、自動化で憂き目を見る人々を経済的にサポートすることで、貧困対策の1つになるという。

ベーシック・インカムの導入にはデータが必要であり、これまでも膨大な数の実験によってデータを得ようとしてきた。しかし2018年になって多くの実験が中断されたり、遅延したり、あっという間に打ち切りにされた。これはとりもなおさず、手に入るはずだったデータの供給が断ち切られたということだ。

MITテクノロジーレビューは2018年6月、「ベーシック・インカムは 人々を幸せにするのか? 世界最大の実験で見えた変化」という記事を掲載した。カナダのオンタリオ州の4000人による実験で給付金を受け取っている人々に話を聞き、コミュニティにどのように影響を与えているのかを報じた。当初3年間の予定だったプログラムが2019年には打ち切りとなるという発表があったのは、ちょうどその2カ月後のことだった。参加者へ支給される給付金は2019年3月が最後となる。

私たちはベーシック・インカムについてのデータを待ち続けている。2016年にMITテクノロジーレビューは、「ベーシック・インカムは有効? 結果は2017年に判明」という予測記事を掲載した。私たちが待っていたのは、2つの大掛かりな実験結果だった。最初に注目したのはフィンランドの有望なベーシック・インカム・プログラムで、2017年の開始時にはかなり誇張された宣伝が多く流された。その後2018年になって、プログラムは当初の実験期間以降は延長されないことが判明した。もう1つの実験はテック・インキュベーターのYコンビネーター(Y Combinator)によるものだが、何度も先送りされ、結局2019年にずれ込んでいる。

https://www.technologyreview.jp/s/119150/universal-basic-income-had-a-rough-2018/