ハエの幼虫であるウジ虫といえば「不潔」「生ゴミや死体にたかる」といったイメージを持たれており、人々から忌避されがちです。しかし、そんな悪いイメージの強いウジ虫をシリアやイエメンなどの戦争地帯に送り込み、「傷口をきれいにするために」利用する試みが進行中だと報じられています。

Maggots to be sent to war zones by government to clean wounds and save limbs
https://www.telegraph.co.uk/news/2019/01/10/maggots-sent-war-zones-government-clean-wounds-save-limbs/

実はウジ虫を利用して傷口をきれいにする治療法は新しいものではなく、「マゴットセラピー」とも呼ばれる古くはアボリジニの人々も使っていた伝統的な治療法。ウジ虫の多くはヒトにたかった場合、死んでいる組織だけを食べて生きた組織は食べないため、腐ってしまう可能性のある死んだ部分だけを除去することができます。

薬品などの物資が限られている戦場においては、ウジ虫を使って傷口を清潔に保つことで感染症を予防し、感染症によって死亡したり手足を切断したりするリスクを軽減することができるとのこと。第一次世界大戦をはじめとする近代戦争においても、「傷口にウジ虫がたかっている方が傷の治りが早い」ということが経験的に知られていました。

1928年になるとアメリカの科学者らによってウジ虫による傷口の治療が有効であると実証され、1940年代に至るまで北米地域を中心にマゴットセラピーが行われてきました。さまざまな抗生物質が生み出された結果としてマゴットセラピーの重要性は低下しましたが、今日の先進国の病院でもウジ虫を使った傷口の治療が行われています。

先進国の病院でも活躍するウジ虫ですが、今のところ戦争や紛争が続く戦場で意図的に投入されたことはないとのこと。イギリス政府は医療用のウジ虫の実用化にむけてのプロジェクトを進め、戦地や紛争が起こっている地帯で安全かつ清潔なウジ虫を繁殖させる野外病院用の実験室を開発するとしました。

マゴットセラピーによる治療中の様子は一見おぞましいものですが、効果は非常にめざましいものがあります。実験室で無菌状態のまま繁殖して飼育されたウジ虫は、直接または小さな袋に入れた状態で傷口へと投入されます。ウジ虫は壊死(えし)した組織を食べて取り除くだけでなく、唾液から抗菌物質が分泌されるため、細菌の繁殖を防いで感染症から守ってくれるとのこと。

ヤケドから床ずれ、銃創まであらゆるケガの治療にウジ虫は有効であり、十分な医療体制が整っていない戦地において傷が重症化するのを防ぎます。オーストラリアのグリフィス大学の研究者でこのプロジェクトに携わるFrank Stadler博士は、「人々を健康に保つことは、時によって命を守ること以上に重要です。たとえば親が戦争の後遺症で働けなくなったり子どもが障害者になったりすれば、家族が大きな悪影響を受けます」と述べ、ウジ虫による治療が多くの人々を救うだろうと考えています。

全文
https://gigazine.net/news/20190111-maggots-sent-war-zones/
https://i.gzn.jp/img/2019/01/11/maggots-sent-war-zones/01_m.jpg