2065年、日本人女性の平均寿命は91・35歳、男性が84・95歳になるという予測がある。「人生100年時代」と言われるゆえんだ。同時に「終章」の生き方が注目されるようになった。どうすれば人間らしく、充実した人生をまっとうできるのか。兵庫・東播地域の市民の模索を追った。

 「骨上げはしない、0葬に」。兵庫県明石市で夫婦2人暮らしの宮本博道さん(70)は、エンディングノートの葬儀のページに、はっきりと書き込んでいる。

 0葬とは、通夜や葬儀などを執り行わず、24時間の安置後に火葬し、さらに遺骨も引き取らない。墓は不要、散骨もしない。

 山登りが好きな宮本さんは2011年、旅先での死に備え、「現場で火葬して骨は持ち帰らず、葬儀などの儀式は全てしないように」と書いて家族に渡した。その3年後、宗教学者の島田裕巳氏が著書で「0葬」を提唱。「僕が書いたことと同じだ」。宮本さんは65歳を過ぎて終活を始め、自宅や病院で亡くなった際も0葬を選ぶと決めた。

 宮本さんは、葬儀を定年退職の送別会に例える。「開く人も、開かない人もいていい。僕は送別会に100万円かけるより、生前に家族と過ごす楽しい時間のために使いたい」

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 かつて村総出で行われていた葬儀は、時代とともに形を変え、平成の30年でさらに大きく様変わりした。

 「ここ10年で『家族葬』が一気に浸透した」と、葬儀場「花浄院」を運営する北神社(加古川市)の池本丈太郎社長(41)。価格面や核家族化、「社縁」の薄れなど、さまざまな要因が重なり合って家族葬が進んだとみる。

 葬祭情報サイト「いい葬儀」を運営する鎌倉新書(東京)の2017年アンケートによると、実際に行った葬儀のうち家族葬が38%と、15年調査から6・6ポイント増加した。地域や職場の関係者が幅広く参列する従来の「一般葬」は53%と最も多いものの、15年より6・1ポイント減った。

 参列者も減少傾向。「20人未満」は4年前の調査に比べ10ポイント増えて24%。次いで20〜39人(21%)、40〜60人(18%)と続く。

 「家族葬という言葉が現れ、『家族でゆっくりと見送ってもいいんだ』と思えるようになった」と池本さん。北神社では今や7割が家族葬。16年には、1日1組貸し切りの家族葬専用式場を高砂市に開設した。

 「自宅のように過ごせる」とうたう式場や、リビングのような空間に遺体を安置する式場も増加する。三田市の「メモリアルハウスけやきの森」は、外観は一戸建て住宅。玄関から靴を脱いで上がり、2階の寝室から棺を見下ろせる。

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 夫とともに瀬戸内の海に眠りたい。加古川市で暮らす松岡正子さん(77)は長年、海洋散骨にあこがれのような思いを抱いてきた。

 葬儀業者のチラシで知ったが、夫の存命中には口に出せなかった。「九州生まれで昔かたぎ。話せば、『えー』って難色を示してたと思う」

 その夫は5年前に亡くなった。墓は設けず、遺骨は市内の寺の納骨堂へ。散骨へと背中を押したのは、夫が生前、松岡さんに内緒で市内の神社に寄進し、玉垣に名前を刻んだこと。「ちゃっかりしてるなぁと思ったけど、あの人が加古川にいた証しは残るのよね」

 散骨の意向は、2人の息子に伝えている。夫の七回忌を区切りに、予約を入れるつもりだ。



神戸新聞NEXT 2019/1/21 05:30
https://www.kobe-np.co.jp/news/touban/201901/0011995884.shtml