政情混乱に陥っている南米ベネズエラでハイパーインフレーションに歯止めがかからない。国際通貨基金(IMF)は、インフレ率が今年中に1000万%に達すると予測。
商店では日に何度も商品価格が上がり、反米左翼マドゥロ政権が昨年実施したデノミネーション(通貨呼称単位の変更)や最低賃金の引き上げも焼け石に水の状態。市民生活に打撃を与え続けている。

■「チーズ買えない」
1月中旬、首都カラカス市内の食料品店の壁に取り付けられた大きなパネル。チーズやソーセージなど約60種品目の価格は空欄だった。「商品の多くが入荷しないのと、価格変動が激し過ぎるのが理由」。店主のサムエル・アルカセルさんが説明する。
陳列棚にあったチーズの塊の値段は約1万ボリバル(非公式レートで約430円)。前日は約7800ボリバルだった。価格のシールを日に3、4回貼り替えることも。市民の間では商品を購入しようか考えている間に価格が上がったとの笑えない会話が交わされる。
従業員、エグレ・ルイスさんの月給は2500ボリバル。「これではチーズもソーセージも買えず、CLAP(クラップ)がなければ生きていけない」。CLAPとは食料品の低価格による配給制度で、国民の不満解消のため2016年4月に導入された。
社会主義的な政策を取るベネズエラは、石油生産の落ち込みなどから財政難に陥り、食料品や医薬品の輸入が停滞。物不足などで物価が上昇する一方で、通貨は下落を続けている。

■財源ないのに賃上げ
政権は18年8月、通貨ボリバルからゼロを5つ取り、10万分の1に切り下げるデノミを実施した。しかし新たな2ボリバルと5ボリバルの両紙幣は早くも価値がなくなり、店舗での受け取りを拒否されているという。
マドゥロ大統領はハイパーインフレの理由を、敵対する米国などが仕掛ける「経済戦争のため」と説明する。2期目就任直後の1月14日の施政方針演説では、月額最低賃金を300%引き上げ1万8000ボリバルにすると発表。政権はこれまでも数カ月ごとに最低賃金を引き上げてきた。
地元エコノミストのオマル・サンブラノ氏は「財源がないのに賃上げをするため、中央銀行がさらに紙幣を印刷しなければならず、新たなインフレを呼ぶ悪循環となっている」と指摘する。
アルカセルさんの店の共同経営者、デジャリ・パラダさんは「マドゥロ氏には経済政策がない。ドル化と市場開放をしなければ出口はない」と訴えた。(カラカス 共同)

■露、軍事・財政支援検討せず
ロシアのペスコフ大統領報道官は、政局が混乱する南米ベネズエラ情勢で、ロシアが支持する反米左翼のマドゥロ政権に対する軍事・財政を含めた支援の可能性について、支援要請もなく「検討していない」と1月28日に述べた。タス通信などが報じた。
ペスコフ氏は「最も重要なのはベネズエラ人自身が憲法の枠内で意見対立を解決することだ」と強調。「いくつかの国が行っている干渉は状況を深刻化させるだけだ」と述べ、欧米諸国が強めるマドゥロ大統領への退陣圧力を批判した。
米国が暫定大統領と認めたベネズエラのグアイド国会議長との接触について、ペスコフ氏は「ない」とし、接触する計画もないと語った。(モスクワ 共同)

商品価格の変動激しく デノミも効果なし ベネズエラ、ハイパーインフレで打撃
https://www.sankeibiz.jp/macro/news/190205/mcb1902050500003-n1.htm
2019.2.5 06:34