中野剛志「日本の没落」より

シュペングラーが描き出す没落の様相の中には、次のような記述もある。
経済停滞と人口減少の中で、中国など海外からの観光客が落としていく金に
期待するようになった現代日本人が、思わず目をそむけたくなるような一節である。

 人口の減少したアテナイは、外人の観光により、
 また(ユダヤ王ヘロデスのような)富裕な外国人の喜捨によって生きていた。
 そのアテナイでは、急に成金となったローマの旅行錢民どもが、
 ちょうど今日のアメリカ人がシスチーナ食堂を訪れて
 わけもわからずにミケランジェロの作品を眺めているように、
 ペリクレス時代の芸術品を、何の理解もなく、ぽかんとして眺めた。

観光立国とは、世界史において繰り返されてきた没落の光景なのである。