大森さんは長年児童福祉の専門誌の編集委員を務め、15年に児童養護施設を巣立った子供の葛藤をまとめた共著「子どもの未来をあきらめない 施設で育った子どもの自立支援」を刊行していた。かつて入所していた男性は「父親に近いように感じていた」と厚い信頼を寄せていた。

 また、近隣住民は「施設は何十年もここにあって、バザーを開いたりしていた。近くの小学校の1学年に2人ほど、この施設の児童が通学していて、児童は職員をお母さん、お父さんと呼んでいた。理事長さんは20年以上、他の責任者の方もずっと長いこと勤めている。本当にいい人ばかり」と話す。

しかし、容疑者は「施設に恨み」と供述している。元警視庁刑事で犯罪ジャーナリストの北芝健氏は「世間は施設に入っていたというだけで、元入所者に対して冷たいところがある」と指摘する。

 同施設の評判は良好だが、原則として入所していられるのは18歳まで。その後は「ジャングルやツンドラのような厳しい社会」(北芝氏)に出なければならない。そして、4年。捜査関係者によると、田原容疑者は「最近はネットカフェで生活していた」と話している。社会への恨みが、施設への恨みに変わったのだろうか。

 一方、容疑者は「職員にストーカーされた」と供述しているという。

 北芝氏は「一般的に児童養護施設や、老人介護施設などでは虐待が起こりやすい。施設には神様のように優しい人とサディスティックな人がいて、理不尽な暴力を受ける入所者もいる。殺人に正当な理由はないが、『ストーカー』という供述通りなら、その職員を捜すはずで、『施設関係者なら誰でもよかった』という供述と矛盾する。この『誰でもよかった』というのは22歳にしては自立していない発言とも言える」と指摘。

 田原容疑者は大森さんの胸などを複数回、包丁の柄が外れるほど刺しており、強い殺意がうかがえる。「容疑者の現住所や職業はまだ明らかになっていない。施設長が著書を出版し高い評価を受けたなら、施設を出た容疑者としては『施設長の言っていることは現実とは違う』と誤った考えに陥り、強い殺意をもって今回の標的にした可能性も考えられる」と北芝氏は話している。

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