■消えた「命」の気配…福島第1原発の今 廃炉は遠く 東日本大震災8年

鉄筋むき出しの原子炉建屋、胸に着けた放射線量計が鳴り響く−。

 福島県の東京電力福島第1原発は11日、東日本大震災に伴う史上最悪レベルの事故から8年を迎える。かつてオオタカの営巣地だったという原発構内はいま、水素爆発で放出された放射性物質を抑え込むために大半が灰色のモルタルで覆われ、草木など「命」の気配はない。
構内の96%で全面マスクなどの防護服は必要なくなったというが、核心部である建屋は依然として高線量で、廃炉に向けた作業を阻む。最大の難題である溶融核燃料(デブリ)は、2月に遠隔装置による初の接触調査ができた段階で、取り出しは見通せていない。

 「廃炉はスタート地点に立ったあたり」(東電担当者)。汚染水タンクも増え続け、2020年末には敷地容量が限界を迎える。難題の尽きない原発に2月、足を踏み入れた。

デブリ取り出し「長期戦覚悟」
 放射線量計の数値がみるみる上昇し、毎時350マイクロシーベルトを超えた。水素爆発で壁が崩壊した福島第1原発3号機の建屋脇。放射性物質を含む砂ぼこりが舞い上がらないように鉄板を敷き詰め、昨年5月からマスクなどの軽装備で近寄れるようになったが、3時間もいれば一般人の年間被ばく限度に達する線量があり、滞在は5分に制限された。

 3号機は、プールに残ったままの燃料566体の取り出しに向け、ドーム状の作業場が整備された。だが、設備トラブルが相次ぎ、昨年11月の作業開始は今年3月末にずれ込むなど、計画通りには進んでいない。

 10メートルほど離れて隣接する2号機では今年2月13日、調査ロボットが初めてデブリとみられる堆積物をつまみ上げた。ただ、周りの線量は、人が1時間もいれば死に至るレベルの毎時7シーベルトほどあり、取り出し方法の検討はこれから。

 1〜3号機のデブリは合計880トンという推計もあり、どのように分布しているかも分かっていない。原子力規制委員会の更田豊志委員長は「触れたのは大きいが、まだ最初のステップ。長期戦になることは覚悟している」と話す。

汚染水10日で1基満杯に
 デブリは、地下水や冷却水が触れることで汚染水を生むもとにもなっている。

 汚染水は構内の多核種除去設備(ALPS)で処理し、約1200トンのタンクに移される。タンクは7日から10日に1基のペースで増え続けており、既に千基、110万トンに迫る。

 2020年末までに137万トンを保管できる敷地は確保しているとするが、最終処分の方法は決まっていない。国や東電は海洋放出を検討するが、風評被害が再燃しかねないと地元の漁業者などは強く反発している。

 規制委の更田委員長は「科学的に環境に影響を及ぼさないと説明できても、感情的に理解が難しいというのは当然で、政府と東電が説明を続けざるを得ない。大変難しい問題だからと先送りするというのは、廃炉の大きな障害にもなる」と、増え続ける汚染水タンクに危機感を募らせる。

 汚染水を巡っては13年、安倍晋三首相が東京五輪・パラリンピック招致のプレゼンテーションで「アンダーコントロール(統御下)にある」と世界に発信した。確かに海洋に漏れ続けてはいないかもしれないが、視界を覆い隠して立ち並ぶ高さ10メートルの灰色のタンク群は、8年にわたる問題の先送りの象徴でもある。

 ある東電幹部は「汚染水の問題を含めて、原子炉の状況をわれわれははっきり管理できていない」と打ち明けた。政府が「復興五輪」と掲げる東京五輪は来年に迫るが、放射性物質を大気中にまき散らし、復興の足かせとなってきた福島第1の原子力緊急事態宣言は、11年3月11日に発令されたまま解除されていない。

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3/5(火) 10:44配信 西日本新聞