毎日新聞 2019年3月10日 05時00分(最終更新 3月10日 05時00分)
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公立福生病院=東京都福生市で2019年3月6日、宮武祐希撮影

 公立福生(ふっさ)病院(東京都福生市)の人工透析治療を巡る問題で、外科医(50)は2014年ごろ、透析治療中止という方針を松山健院長(当時・副院長)に提案し、松山院長が了承していた。
その後、患者に対して治療をやめる選択肢の提示が始まり、昨年8月に亡くなった女性(当時44歳)以外にも30代と55歳の男性ら数人が治療をやめる選択肢を示され、少なくとも2人が死亡した。了承した理由について松山院長は「選択肢を患者に提示することが普通の医療だから」と話している。

 松山院長は2月下旬、病院内で毎日新聞の取材に応じた。昨年死亡した女性を巡っては、外科医と腎臓内科医(55)が昨年8月、「透析を受けない権利を患者に認めるべきだ」とする考えに基づき、透析治療の継続と、「死に直結する」という説明とともに治療をやめる選択肢を女性に提示。
女性は治療をやめる意思確認書に署名したが、「撤回しようかな」などと治療再開の意思を示して亡くなった。

 松山院長は「いろいろな選択肢を(女性に)与え、本人が(透析治療の中止を)選んだうえで意思を複数回確認しており、適正な医療だ」と強調。
約5年前から透析治療中止を容認していたため外科医らから特段の報告はなく、女性のケースを知ったのは亡くなった後だったという。

 病院は、日本透析医学会のガイドラインで設置が望ましいとされている倫理委員会を開かなかった。松山院長は「普通の医療の一環だから」と説明。「(病院全体で)年間200〜300人が亡くなる。毎回開くのは非現実的だ」と話した。
一方、病院では13年4月〜17年3月、最初から透析治療をしない「非導入」の選択肢を終末期ではない患者計149人に示し、20人が死亡した。
末期的な容体に限定している学会のガイドラインから逸脱しているが、松山院長は「非導入の選択肢は必要で、その方が倫理的だ。(他の医療機関は)『非導入の選択肢はない』と表向きは言うかもしれないが、患者を診ていたら(非導入が)あり得ることは医療人の誰もが思っていることだ」と話した。

 また、松山院長は終末期医療について「意識がなく、意思表示が全くできない患者がいる。胃ろうや人工呼吸器は生命的には永らえる。医療費もそれなりに発生するが、それを是とするかどうかだ」と指摘。
「透析治療を含め、どういう状況下でも命を永らえることが倫理的に正しいのかを考えるきっかけにしてほしい」と語った。【矢澤秀範、斎藤義彦】