戦車はスマホで操作、軍事資金はペイパルで調達
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西側諸国は無関心だが、2014年に始まったウクライナ東部紛争は、いまだに収束の兆しを見せない。長期化する戦闘で疲弊した国軍をサポートするために結成されたのが、スタートアップ並みにIT化・組織化された義勇兵部隊だ。ハイテクを駆使してフリースタイルで戦う一般市民の活躍に米誌が迫った。

■戦火のウクライナに寄付

2017年のクリスマス、ユーリ・デイチャキフスキ(61)はニューヨークに住むウクライナ系移民に3000ドル(約33万4000円)を送金した。「我らのバッタ」という暗号名のドローンの購入代金として。

自身もウクライナ系移民の子孫で、米オハイオ州クリーブランド出身のユーリは、ジョンズ・ホプキンズ医師コミュニティに属する心臓専門医だ。彼は送金の内訳については明かさなかったが、このドローンはいずれロシアの支援する分離主義勢力と戦闘状態にあるウクライナ義勇大隊が使用することになる。

ユーリのスマホ画面には東ウクライナの塹壕に爆弾が落下し、あわてて退避する敵陣の姿が映し出されていた。

■クリミア併合から戦闘が激化

ロシアと欧州のはざまで板挟みの数十年が経過した2013年、ウクライナの親ロシア派の大統領ヴィクトル・ヤヌコヴィッチがEUとの連合協定を断念。それが発端で、ソ連崩壊後のアイデンティティの危機がウクライナで爆発した…ロシア側は否定するが、独自に部隊や傭兵も派遣していた。

その結果、2014年春以降にウクライナ軍と親ロシア派との戦闘が始まり、多数のウクライナ市民が「戦争ビジネス」に引きずりこまれていった。

■役に立つ装備はコンドームだけ

ウクライナ国軍は惨憺たる状態で、汚職と無策により地上軍構成員4万1000人のうち臨戦可能なのは6000人のみ。親ロシア派が次々と勝利をおさめ勢いづくなか、国軍兵士の前線輸送に使用されたのは地方銀行から接収した装甲車だった。


寄せ集めの義勇兵たちは個人の力をつくし、民間による戦線を維持した。食品大手ダノンのマーケティング部長だったアンナ・サンダロヴァは、車でウクライナ東部の前線を何度も往復し、食糧200万ドル分を供給した。ある製造会社のオーナーは旧ソ連時代の廃戦車を一台当たり500ドルで補修して再び前線へと送りこみ、合気道の女性講師は義勇衛生部隊を組織した。

■献金総額15億6000万円!

戦闘資金の個人献金者ネットワークもできあがった。彼らは狙撃銃に暗視スコープ、退役兵士の医療費、トラウマ治療のための費用まで捻出した。国防省内に設置された市民組織「義勇兵委員会」によれば、戦闘開始から1年以内で献金総額は1200〜1400万ドル(13億3700万円〜15億6000万円)にもなったという。

さらにこの金額に、アメリカ、カナダ、欧州のウクライナ人移民グループからの数百万ドルもの献金が追加された。西側メディアが「凍結された紛争」と呼ぶ戦闘停止状態に陥ってもなお、彼らは資金援助を続けている。

だが「凍結」という言葉とは裏腹に、ウクライナ東部が一触即発の危険をはらむ「火薬庫」であることに変わりはない。ウクライナ紛争を監視する欧州安全保障協力機構(OSCE)は、約480kmにおよぶ接触ライン上での停戦協定違反が数百万件あったと報告している。

■ペイパルで資金を募り、スマホで武器を操作

市民による献金は、これまでの戦争でも珍しいことではなかった。

だが、いまウクライナで起きている「クラウドファンディング戦争」は、過去に例のないものだ。義勇兵部隊はソーシャルメディア上で勝利を宣伝し、衛生兵はスマホで撮影した戦場の動画を使って、モバイル決済サービス「ペイパル」でファンドを募る。

エンジニアらは安価で信頼性のあるドローンを買い、戦闘に必要な部品を足して武器に生まれ変わらせる。プログラマーらは、砲兵部隊がタブレット端末上で武器を操作できるよう標的に照準を定めるためのコードを書く。資金集めから物品供給まで、彼らの働きぶりはスタートアップそのものだ。

ただ、どんな発明にも落とし穴はつきもの。こうした民間の兵站線は、ウクライナ国内にはびこる汚職の抜け道にもなっている。

ネオナチや犯罪者に武器が流出するケースもある。民間人の戦争資金提供は故国を救い、親ロシア派の進撃を阻止したが、ウクライナがロシアの残した「遺産」を清算するには、この先何年もかかるはずだ──。
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