傍聴席でメモ、平成から=米弁護士が提起、最高裁認め
2019年04月21日08時25分
https://www.jiji.com/jc/article?k=2019042000233&;g=soc

 全国の裁判所で行われている裁判は憲法の規定に基づき、誰でも法廷で傍聴できるが、傍聴席で自由にメモが取れるようになったのは平成になってからだ。それまでは許可が必要とされていた上、実際に認められることはまれだった。変わるきっかけは、米国人の弁護士が起こした訴訟だった。

 日本で国際交流基金の特別研究員となったワシントン州の弁護士ローレンス・レペタ氏(68)は1982年秋、東京地裁であった所得税法違反事件に関心を持ち傍聴に行った。着席してペンとノートを取り出し、メモを取ろうとしたところ、突然廷吏に制止された。「公開の裁判でメモが禁止とは、全く想像できないことでびっくりした」

 レペタ氏からの人権救済申し立てを受け日弁連が87年にまとめた調査報告書によると、当時、東京など多くの地裁では、法廷入り口に許可を得ずにメモを取ることを禁止する注意書きが掲示されていた。レペタ氏は裁判所に繰り返し許可を求めたが不許可は7回に及び、85年3月に東京地裁に国家賠償訴訟を提起した。

 一、二審は敗訴。最高裁は89(平成元)年3月、上告を棄却したが、
「メモが裁判を認識記憶するためにされるものである限り、憲法が保障する表現の自由の精神に照らし尊重に値し、故なく妨げられてはならない」と指摘。
「裁判長はメモを取ることを傍聴人の自由に任せるべきで、それが憲法の精神に合致する」と実質勝訴判決を言い渡した。レペタ氏は「やってきたことが正しいと確認でき、本当にうれしかった」と振り返る。

 最高裁判決から30年余り。いまでは廷内でメモを取る姿は当たり前になった。長時間に及ぶ証人尋問なども正確に記録が残せるため、重要なポイントを整理することも可能だ。
インターネットの時代になり、裁判の詳細な内容をブログなどで発信する人たちもいる。「あの裁判の勝利が表現の自由への大きな貢献につながったと思う」。レペタ氏はしみじみと語った。