https://www.jiji.com/jc/article?k=2019042700425&;g=soc

30日に退位される天皇陛下は、ハゼの分類学の研究者でもある。
陛下も会員になっている日本魚類学会の懇親会で、絶滅種に指定されていたクニマスを発見したことでも知られる
中坊徹次京都大名誉教授=魚類学=(69)はある時、思わず絶句するような光景を目にした。
 
手酌で乾杯に臨む陛下。「誰かついで差し上げればいいのに」と思う一方で、陛下の和やかな表情に、
「本当に楽しんでいらっしゃる。これでいいんだ」と考え直した。「手酌で乾杯」は10年程前にももう一度あったという。
「懇親会では準備された名札に『明仁』と書かれ、参加することを示すビールジョッキのマークが付いていたことも」
とにこやかに振り返った。

陛下はこれまで公務の合間を縫うようにしてハゼの研究を続けてきた。
40年近くにわたる研究仲間でもある中坊さんは「ちょっとしたことでも妥協しないし、指摘も鋭い」と話す。
 
編集中の図鑑に「(ハゼの仲間である)チチブは淡水にいることもある」との一文を入れようとした時には
「ちょっと待って。池で採集した標本を確認したい」と主張。論文を引用したくだりでは
「この論文に、こうした文言はなかったのでは」との指摘を受けたこともあったという。

「簡単に定説を信じず、ご自分で調べないと気が済まない。これは、好奇心、根気と共に研究者に求められる絶対条件。
もちろん、陛下は全て兼ね備えている」と中坊さん。
 
その上で、陛下らと執筆し、4月に発表した雑種に関する論文について、「陛下が京都の仙洞御所の池で採集した
ハゼのうろこの様子が、琵琶湖特産のヨシノボリに似ているが、通常とは異なると気付いたことがきっかけだった」と指摘。
「その観察眼は素晴らしく、陛下になるという立場に生まれていなかったら、間違いなく魚類学者になっていただろう」と話す。
 
「外国からの評価がより高い」という陛下の論文。退位後は「研究を楽しんでほしい」としながらも、
京大退職後の自らの経験を踏まえながら、「生活のリズムをつくることが大切。ここだけは私の方が先輩ですし、
苦労したのでアドバイスさせてもらいます」とほほ笑んだ。


ハゼの分類の研究をされる天皇陛下=2018年7月、皇居・生物学研究所(宮内庁提供)
https://www.jiji.com/news2/kiji_photos/20190427at33S_p.jpg

インタビューに応じる京都大の中坊徹次名誉教授=2018年12月、京都府宇治市
https://www.jiji.com/news2/kiji_photos/20190427at34S_p.jpg