※週末の政治
日本ではゆるやかなインフレ政策を実施しているはずなのに、なぜ消費増税のような緊縮財政政策をとろうとしているのだろうか(撮影:尾形文繁)
https://tk.ismcdn.jp/mwimgs/4/9/-/img_4970a607533ac116f2ddfa9e1e66969b737445.jpg

■アメリカの株高を支えている2つの要因

※省略

 ここで、アメリカにおける財政政策といえば、メディアや経済論壇で最近注目されているのがMMT(現代金融理論)である。「政府債務や財政赤字を増やすことは問題ない」などの主張から「異端の理論」とメディアで紹介されている。

 またMMTの理論は、民主党の大統領候補となっている一部有力政治家の政策立案に影響を及ぼしている。2020年の大統領選挙の展開は現時点では全くわからないが、2、3年後のアメリカ経済や政策動向に影響する可能性がある。

 MMTは異端の経済理論として、一見突然現れたようにみえる。ただ、1990年代から、この理論は一部経済学者から提唱されていた。政策手段として財政政策を重視している点はケインズ経済学がルーツとなっており、またポストケインズの重鎮であるハイマン・ミンスキーなどが発展させた理論から、MMTは構築されてきたという経緯がある。

 MMTを掲げる経済学者は、「アメリカなどは財政赤字に制御されない財政政策をとるべきだ」などと唱えている。これは弊害が大きい「トンデモナイ政策」のように見える。

 一方、政府と中央銀行を一体として統合政府が政策を行う意味で、MMTの理論は金融・財政政策の一体的な運営、または「ヘリコプターマネー政策」と親和性がある。

■MMT理論は積極的に評価して良いのか? 

 2008年のリーマンショック以降、主要先進国はヘリコプターマネーに近い政策に足を踏み入れていたが、インフレ2%の安定化を実現するまで、総需要刺激政策を徹底する経済政策が望ましく、筆者はMMTの理論には評価できる点があると考えている。

 実際に、欧州や日本と比べれば、アメリカではひと足はやく成長率が高まった。だが、総需要やインフレ率の伸びが鈍い状況はまだ続いている。低インフレの長期化の処方箋として、積極的な財政政策が必要という考えは、MMTに対して批判的な多くの経済学者も同意している。

 ただMMT論者が唱える財政政策には、1 景気変動に機動的に発動することが難しい、2 政治が暴走した時に歯止めがかからない、また、3金融緩和が不十分な中で拡張財政が発動されると金利上昇が起こりうる、など問題がある。

 具体的には、米民主党の大統領候補者が、野心的な社会保障やインフラ投資などを掲げ、これらの財源には「無尽蔵な国債発行」があるとしているが、景気が過熱しインフレになった時に、政治的に拡張財政をやめることができないリスクがある。

 このため、2%インフレを命題としている中央銀行が、インフレ安定に一義的な責任を持ち、そして総需要とインフレの安定化には金融政策が中心的な役割を果たす、という体制が望ましいと筆者は考えている。

 インフレ目標実現を使命とする中央銀行は、政治に大きく左右されずに機動的に金融政策を行うことができるため、インフレの行き過ぎを抑制することが可能である。また、アメリカは、日本やユーロ圏などと比べればインフレ安定に成功しているため、MMT論者が唱えるほど極めて大規模な財政政策が実現する可能性は高くないだろう。

■日本の緊縮政策の是非を問う議論は貧弱なまま

 先に述べた通り、アメリカでMMTに批判的な経済学者は少なくない。だが、財政政策によってアメリカの経済成長を押し上げることに賛意を示す意見は非常に多い。成長停滞、低インフレが長期化への対応策として経済政策をより積極的に発動するにあたり、MMTのロジックに依存しなくても、標準的な経済理論によって、拡張的な財政政策の有効性は説明できるということだろう。

 一方で、日本のメディアなどでは、MMTを「異端の理論」として、ポピュリズムの蔓延がこうした「危うい政策を招いている」など表層的な評価が散見される。これは、財政健全化という、ある種の教条にとらわれた偏った見方であると筆者は考えている。

 むしろ、アメリカでは、MMTを含めて拡張的な財政政策に関して幅広く議論されていると評価することができるのではないか。

 それに比べると、日本では2%インフレ実現に程遠い経済状況で、消費増税など緊縮的な財政政策を強める政策の是非が、しっかり検討されているようには見えない。この意味で、日本の財政政策に関する議論は、残念ながらかなり貧弱なままであるように筆者には見える。(村上尚己:エコノミスト)

5/2(木) 5:50配信
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190502-00279582-toyo-bus_all