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ファストフードチェーン「バーガーキング」がブラジルで展開していた痛烈な炎上広告が、話題を呼んでいた。

3月に開始されたキャンペーン「Burn That Ad(あの広告を燃やせ)」の内容は、「バーガーキング」の専用カメラアプリを通してライバルブランドの広告を見ると、その広告にメラメラと火の手が上がり、燃えカスの中からバーガーキングのお得なクーポンが浮かび上がる――という、いささか過激なもの。これは実際の景色に架空の情景を重ねて表示するAR(拡張現実)技術を応用したもので、文字通りの“炎上広告”だ。

■まるでラップバトル!? 欧米のブランド間競争で広がる“比較広告”とは?
バーガーキングは、AR技術を使った“炎上広告”以前にも、過激な宣伝手法がたびたび話題を呼んでいる。

「とにかく“インパクト重視”というのが、バーガーキングが打ち出す広告の特徴です。また、失敗を逆手に取ってライバルと差別化を図る広告戦略を取ることもあります。例えば2017年には、実際に直火焼きグリルからの出火が原因で火事になってしまった店舗写真に、【FLAME GRILLED SINCE 1954(1954年から直火焼き)】というキャッチコピーをつけた広告を発表し、バーガーキング最大の売りである“直火焼き”をアピールしました(笑)。

一方で、バーガーキングは、ライバルブランドへの“イジり”に心血を注いでいるイメージもありますね。特に印象的なのは、業界シェア1位のマクドナルドをイジった広告です。2017年のクリスマスには、マクドナルドに自社の直火焼きグリルを送りつけるというCMを打って、差別化のアピールに挑戦していました。

ひとつの企業が比較広告を打ち出せば、そのライバル企業が“ならウチだってここは勝っているよ!”と反撃に出る。お互いをけなしながらも根底では尊敬し合う流れがあるんです。これは消費者目線では、各企業の優位性を相対的に見ることができるというメリットもあるのです」

そうした流れで印象的なのが、マクドナルドが2016年に打ち出したCMにまつわる騒動だろう。とあるフランスの田舎町の街道を行くカップルの車。お腹をすかせた彼らの目に入ってきたのは、右折左折と懇切丁寧に書き綴られ、見上げる先端に「258km」と記された巨大なバーガーキングの看板と、その横でシンプルに「5km」と書かれたマクドナルドの看板。要するに、バーガーキングは店舗数が少ないけどマクドナルドならすぐ近くにあるよ、というメッセージが込められているのだ。

だが、イジられたバーガーキング側はすぐさま「アンサーCM」を公開。看板を通り過ぎたCMのカップルがマクドナルドに立ち寄り、格安のコーヒーだけを購入した後、旅のお供のコーヒーをすすりながら時間をかけてでも味で勝るバーガーキングまで行く、という内容だった。あたかもラッパー同士のラップバトルのようであるが、各ブランドの特徴を活かした比較広告合戦の好例だろう。

■過激広告の裏には“ファンへのサービス精神”がある
「バーガーキングは徹底して“マス”ではなく“コア”を優先しているんです。低価格で勝負しているマクドナルドなどに対し、バーガーキングは味や質の良さを全面に打ち出しています。多くの人たち、つまり“マス”な人たちは、安ければなんでもいい。しかし、味を重視する一部の人たち、つまり“コア”な人たちは多少値が張ってもバーガーキングを選ぶ。そうしたコアなファン層を広告戦略の中心に据えているんです。

バーガーキングには、自分たちのファンこそがブランドの屋台骨という意識が強くあるのだと思います」

■過激な宣伝方法が日本では広まらない、その理由
しかし、こうした過激で面白い広告が日本でほとんど行なわれていないのは、一体なぜなのだろうか?

「ひと言で言うなら、日本は比較広告に寛容じゃない、ということです。つまり企業側がこうした茶目っ気のある比較広告を打ち出したいと思っても、日本の世間一般ではすぐにバッシングと捉えられてしまうからです。90年代の初頭に、ペプシ・コーラが当時人気だったM.C.ハマーを起用して、コカ・コーラを飲んで意気消沈していたハマーにペプシを渡すと一気に元気になるという内容のCMを制作しました。しかし、各テレビ局が『業界に不要な混乱を招く』と放送を拒否した事例があったのです。

ちなみに、バーガーキングのライバル広告を燃やしてクーポンをゲットできる例のARアプリですが、アメリカ本社版は日本のスマホではダウンロード不可の表示となってしまい、日本版はダウンロードできますが『燃やすボタン』は付いていないんです。『日本では火が出ません』くらい遊び心を持ってみてもいいのでは?と感じましたね(笑)」