フランス・パリの観光名所で世界文化遺産のノートルダム寺院(大聖堂)が大火災に遭ってから15日(日本は16日)で1カ月。マクロン仏大統領は「5年以内の修復完了」を掲げ、同国政府は焼けた尖塔(せんとう)の修復に向けデザインを公募すると発表。再建後も世界遺産であり続けるには建造時の状態を保つ「オーセンティシティー」(真正性)が要件となる。姫路城(姫路市)など日本の世界遺産建造物は工法や材料、漆喰(しっくい)の厚さまで再現し、修理・修復を重ねることで「原形」を維持しており、寺院の修復をめぐり、真正性の守り方が改めて注目される。(宮本万里子)

 同寺院は1163年に着工し、1345年に完成。ゴシック様式建築を代表する建物で、パリ市内の同寺院を含むセーヌ川一帯は1991年、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界文化遺産に登録された。

 火災は4月15日午後(日本時間16日午前)に発生。同寺院高層部の高さ約90メートルの尖塔が焼け落ちた。直後、マクロン大統領は国際コンペによる修復を決定。ユネスコや日本などの諸外国も支援を表明し、民間の寄付も多く寄せられている。

 一方で、世界遺産は真正性、つまりオリジナル(原形)に忠実かどうかが登録の大前提となる。登録の理由になる特徴が損なわれると抹消され、登録後に橋が新設されて景観が変わったドイツのドレスデン・エルベ渓谷の例などがある。

 「真正性をどう捉えるかが寺院再建の行方を左右する」と指摘するのは、世界遺産登録を審査する国際記念物遺跡会議(イコモス)の副会長を務めたことがある神戸芸術工科大大学院の西村幸夫教授(67)=都市計画=だ。

 93年に奈良県の法隆寺とともに国内初の世界遺産となった姫路城は門や瓦、石垣などについて、約400年前の築城時の姿を守り、真正性を維持するよう、修理・修復を重ねてきた。

 大天守の解体を伴う64年までの「昭和の大修理」や、2015年まで5年半にわたった「平成の大修理」でも工法や材料を忠実に再現。日々の補修も同様の考え方で進めてきた。

 西村教授は「石造物が多い欧米と違って日本の古い建造物は老朽化が早い木造が大半。修理・修復の技術力も高く、それゆえ世界遺産の真正性を維持する仕組みとして評価されている」と話す。

 ただ「『日本流』は文化として根付いてきたもの。他の国には同じようにできない」と説明。同寺院について「パリの街並みの価値を決定づける建物。真正性は、その価値を損ねないかどうかが鍵になる」とし、「外観やデザインに多少変化があっても歴史的な都市景観を維持できれば、問題ないのではないか」と推測する。

 姫路城では漆喰の厚みまで調べて修理していることなどを踏まえ、「変化の範囲がどこまでなのかを決めるには被害の全容や構造、価値の在り方を十分に精査しなくてはならない」と指摘。「そのためには時間がかかる。5年での修復は難しいのではないか」との考えを示した。


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神戸新聞NEXT 2019/5/13 06:00
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