スルガ銀行は15日、総額1.7兆円の投資用不動産向けのすべての融資を対象にした不正行為の調査結果を発表した。書類の改ざんなどの不正行為や、不適切な行為が疑われる融資は総額1兆700億円に達した。このうち5500億円は預金通帳や契約書の改ざんや偽造などの不正があったと認定した。不正行為がまん延していた実態が改めて浮き彫りになった。

調査は、不正発覚の発端になったシェアハウスを含めて、スルガ銀の投資用不動産向け融資全体(3.8万件、1.7兆円)を対象に実施した。借り入れ希望者の自己資金や年収を示す書類を改ざんしたり、売買契約書を偽造したりする明確な不正は5537億円分(7813件)あったと認定した。不正の疑いがある案件は864億円(1575件)だった。

これとは別に、不適切な手続きの疑いが残る例も明らかにした。スルガ銀は不動産取得費用の1割を自己資金でまかなうことを融資実行の条件としている。これを形式的に満たすために、物件を売った不動産業者が一時的に借り入れ希望者の「自己資金」を立て替えた疑いがある案件が4300億円分(6908件)あった。

この結果、何らかの不適切な行為が入り込んだ融資の合計は1兆円を超えることになる。ただ返済に延滞は少なく、すでに融資の焦げ付きに備えた貸倒引当金を積んでいる。今回の調査結果がすぐに不良債権処理といった財務負担につながわるわけではない。

スルガ銀行は同日、新生銀行と個人向け金融など幅広い分野で業務提携することも発表した。住宅ローンなど個人分野に加え、スルガ銀がほぼ手がけていない法人向けビジネスでも連携する。スルガ銀は新生銀と組んで、投資用不動産向け融資をめぐる資料の改ざんなど不正行為で失った信頼回復をめざす。

スルガ銀は同日、家電量販大手のノジマとの業務提携も発表した。金融とIT(情報技術)を融合したフィンテックの分野で連携する。ノジマはすでにスルガ銀株の5%弱を保有しており、業務面でも連携を深める。

スルガ銀と新生銀は(1)無担保ローンや住宅ローンなど個人向け(2)事業承継など法人取引(3)資産の流動化―の3分野で具体的な連携策を探る。例えば新生銀の審査要件を満たさない住宅ローンの借り入れ希望者について、スルガ銀が引き受けることなどを想定している。

新生銀によるスルガ銀への出資は15日の発表内容に含まれなかったが、新生銀は「資本提携を含めた様々な将来の選択肢を排除するものではない」として、将来の出資に含みを持たせた。今回の提携は、投資用不動産向け融資での不正で失ったスルガ銀の信用を補完する意味合いもある。

同日、静岡県沼津市で記者会見したスルガ銀の有国三知男社長は「互いに個人向け分野でノウハウを蓄積しており、組むことで新しいことができる」と述べた。そのうえで「これからのビジネスモデルに密接に関係してくる」と強調した。新生銀と組んで、投資用不動産向け融資に過度に傾斜した事業モデルの再構築をめざす。

今回の提携は排他的なものではなく、スルガ銀による他の企業との資本・業務提携を縛らない。スルガ銀は再建に向けて創業家との関係の清算を進めているが、現在もなお創業家の関連企業が約13%のスルガ銀株を保有している。この株式の受け皿を含めて、スルガ銀は今後も外部との連携を探ることになる。

2019/5/15 16:33 (2019/5/15 18:24更新)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO44823590V10C19A5EE9000/
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