第二次世界大戦時、ナチスのシンボルに悪用されたルーン文字
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Point

■スウェーデン政府がネオナチとの深いつながりを懸念して、伝統的な「ルーン文字」を禁止する可能性がある

■これに対し、古代ノルウェーの宗教を信仰する者らから反対の声があがった

■ルーン文字は「ブルートゥース」のロゴにも用いられており、ソーシャルメディアでも政府の案を批判する声が噴出している

日本で言えば「ひらがな」が消えるようなものだ。

スウェーデン政府は現在、中世後期まで用いられたとされる「ルーン文字」を禁止する可能性を探るための調査に乗り出している。

スウェーデンの法相である社会民主労働党のモーガン・ヨハンソン氏がけしかけたこの調査は、スウェーデンのネオナチらとルーン文字とのつながりの深さからおこなわれたものである。

■文字はアイデンティティの1つ

ネオナチのイデオロギーが広まる1000年も前からルーン文字は存在しており、この調査に対しては多くの疑問の声が上がっている。

政府案によれば、古代ノルウェーのシンボルや偶像、伝統的な装飾品までもが「民族への嫌悪を促す」といった理由から禁止される可能性があるとのことだ。さらにこれは、ミルニョルとして知られるトールのハンマーといったものまでをも対象に含めてしまうかもしれない。

こうした政府による融通の利かない案は、アサトゥルと呼ばれる古代ノルウェーの宗教を信じ、守り続けている人たちを怒らせる結果となった。また、ヴァイキングの文化が北欧スカンジナビアとは切り離せないものだと考えている歴史ファンもまた、そんな政府に対して腹を立てている。

信教の自由は、スウェーデン憲法や国際法によって認められている。議論の中心となるのは、特定の文字を禁止することが信教の自由を制限するものかどうか、ということだ。

また、ルーン文字に対して恣意的な意味を加えることにより、政府はプロパガンダのために北欧神話を利用したナチスと同じミスを犯そうとしている可能性もある。

こうした政府のプランに対抗するため、アサトゥルを信仰する団体は「ルーン文字に触れるな(Don’t touch our runes)」というモットーのもとキャンペーンを開始し、このルーン文字を巡る闘争においておよそ10,000の署名を獲得している。

さらには、ルーン文字を守るために立ち上がったスウェーデン人らによって、ソーシャルメディアでもこうした政府のプランが批判にさらされているとのことだ。

その中にはライターのKaterina Janouch氏による、「ルーン文字のタトゥーが体にある人に、バカな政府はどんな対応をするのだろう? 一生強制労働? 追加徴税?」といった意見もみられた。

■「ブルートゥース」もルーン文字

ルーン文字は、ヴァイキング時代の終わりまで北欧で用いられていた文字であり、キリスト教への改宗の流れの中で、徐々にラテン文字であるアルファベットへと置き換えられていった。

しかしながら、ルーン文字は装飾などの目的のために使われ続けており、人々による使用が絶えることはなかった。今日、世界で最も有名なルーン文字が使われたデザインは、間違いなく「ブルートゥース」だろう。

ブルートゥースのロゴは、アルファベットの“H”と“B”に相当する“Haglaz”と“Berkanan”といった2つのルーン文字のコンビネーションによって出来上がっている。“H”と“B”はヴァイキング時代のデンマークの王、「Harald Bluetooth」のイニシャルから取ったものだ。

日本人からすればあまり馴染みのない文字だが、こうした歴史ある文字が失われてしまうのは寂しい気もする。今後スウェーデン政府がどういった行動に出るのかは分からないが、アイデンティティの1つともいえる「文字」を保護する方向へと向かってくれることを願うばかりだ。(文/なかしー)

2019/05/23
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