https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190604-00000034-jij_afp-sctch
 分子標的治療薬が膵臓(すいぞう)がんの進行を著しく減速させる可能性があるとの研究結果が2日、発表された。
進行性膵臓がんと診断された患者の平均余命は1年未満とされているが、この分子標的治療薬を投与した患者は臨床試験を開始してから
2年目の時点で3分の1が生存しているという。

 臨床試験では特にBRCA遺伝子の変異を持つ患者に注目した。
BRCA遺伝子の変異は親から子に受け継がれ、膵臓がん、卵巣がん、前立腺がん、乳がんなどの発症リスクを高めることが分かっている。
女優アンジェリーナ・ジョリー(Angelina Jolie)さんが予防措置として両乳房の切除手術を受けたのは、BRCA遺伝子変異が検査で検出されたためだ。
BRCA遺伝子変異は、損傷したDNAを修復する人体の能力に影響を及ぼす。DNAの損傷は、過度の日光を浴びることやアスベスト(石綿)暴露など
さまざまな要因に起因する。

 今回の研究を主導した米シカゴ大学(University of Chicago)医療センターの腫瘍学者、へディー・キンドラー(Hedy Kindler)氏は、AFPの取材に
「正常な細胞はDNAの損傷を修復できるが、BRCA変異を持つ細胞はこの損傷を修復できず、DNAに損傷があるため異常に増殖し始める」と語った。
今回の実験では、損傷を受けた細胞が自己修復するのを助けるタンパク質PARPを阻害する「PARP阻害剤」を使用した。
PARP阻害剤は、BRCA遺伝子変異を持っているため修復機能が低下しがん化した細胞に対して特定的に作用し、損傷を悪化させ、最終的に細胞死に導く。

 今回の臨床試験では、膵臓がん患者3300人以上にスクリーニング検査を実施し、BRCA遺伝子変異を持つ約250人を特定した。
そして、これらの患者の一部に「オラパリブ(Olaparib)」と呼ばれるPARP阻害剤を、残りの患者にはプラセボ(偽薬)をそれぞれ無作為に割り当てた。

■がん進行リスクが47%減
 その結果、オラパリブはがんの進行リスクを対照群に比べて47%軽減することが明らかになった。
オラパリブは製薬大手アストラゼネカ(AstraZeneca)とメルク(Merck)が共同開発した薬で、「リムパーザ(Lynparza)」という商品名で販売されている。
プラセボを与えた患者に比べて、オラパリブを投与した患者はがんの進行が抑制された期間が2倍近く(3.8か月に対して7.4か月)長かった。
この尺度は「無増悪生存期間(PFS)の中央値」として知られている。

■腫瘍の縮小
 キンドラー氏は「オラパリブの投与で腫瘍が縮小した患者は全体の約4分の1に上り、腫瘍の縮小は2年以上維持された」と語った。
キンドラー氏は今回の研究成果を米国臨床腫瘍学会(American Society of Clinical Oncology、ASCO)の年次総会で発表した。
キンドラー氏は今回の研究の全体構想は
「そのままでは死に至る予後を、少なくともしばらくの間は潜在的な慢性疾患に変えることが可能で、それを制御できるようになる」ということだと述べた。

 キンドラー氏はまた、膵臓がんで兄弟を亡くし、自分自身も膵臓がんであることを知らされたある男性患者の事例に言及した。
この患者はBRCA変異を保有することが判明し、臨床試験の被験者となったという。
「CTスキャンを取るたびに、彼の腫瘍は徐々に小さくなっている」とキンドラー氏は話した。
「薬を1日に2回服用しており、2年半が経過した今も普通の生活を送っている」