https://www.gizmodo.jp/2019/06/goo-from-giant-salamanders.html
 チュウゴクオオサンショウウオはケガをした際に、皮膚のリンパ腺から白い粘液を分泌します。
ある最新の研究で、この粘液から傷口を塞いで治癒を促進する素晴らしい医療用接着剤を生み出せることが明らかになりました。

■サンショウウオのネバネバが傷をくっつける
手術の後、効果的かつ安全に傷口を塞ぐのは大事なことです。
ほとんどの傷口は縫合か医療用ステープラーを使って塞がれますが、こういった「機械的」なアプローチがさらなる組織の損傷や
ストレスを引き起こすことも…。
無縫合な代替手法が必要とされていますが、それらは強く粘着性があり、バイオフレンドリーで低コストかつ生産しやすいものでなくてはなりません。
今も医療用接着剤はありますが、完璧からは程遠く、有毒性や弾性の乏しさ、損傷部位での過度の熱といった限界があります。

Advanced Functional Materialsで発表された研究は、チュウゴクオオサンショウウオ(学名Andrias davidianus)の皮膚分泌物が
傷口の治癒のための医療用接着剤の生産に使えると示しています。
数々のテストにおいて、この接着剤はブタとネズミの傷口を効果的に塞ぎ、治癒を促進することへの効力を証明しました。
この新たな論文にはハーバード大学医学大学院、重慶医科大学附属児童医院、四川大学をはじめ複数の機関の研究者たちが携わっています。

■生ける化石
チュウゴクオオサンショウウオは成長すると体長1.8メートル、体重は64kg以上になる世界最大の両生類。
その起源を2億年以上前のジュラ紀初期に持つ、生きる化石だと考えられています。
何百万年もの進化の過程で、この巨大な両生類はユニークな治癒法を備えるように。
擦り傷や他のケガに耐えたのちに、治癒の過程を支える白い粘液を皮膚のリンパ腺から分泌するのです。

歴史的な説明と論文の記述によれば、中国の人は1600年以上も前からこういった皮膚の分泌物を火傷などのケガの手当に使ってきたとか。
2015年の研究は、その粘液には組織再生と免疫防御反応を引き起こす化合物といった望ましい特性が多く含まれていたと発見しています。

■採取した粘液はほぼそのまま使える
研究者らは新たな医療用接着剤を、「skin secretion of Andrias davidianus(チュウゴクオオサンショウウオの皮膚分泌物)」
あるいは単にSSADと名付けました。この生体接着剤を作るため、彼らはオオサンショウウオの皮膚を刺激して、分泌物を直接収集。
凍結乾燥させてパウダー状にしたら、生理食塩水を加えることでジェル状の物質が作られます。
著者らによればサンショウウオの粘液に異物は何にも加えられなかったとのこと。

ブタやネズミを対象にした実験では、このジェルがよく効いてうまく適応したと示されました。
接着力は他の医療用接着剤よりもわずかに劣っていましたが、全体的に見れば広く使われている医療用接着剤よりもパフォーマンスが優れていたのです。
科学者らはこのジェルを使うことで、出血している皮膚切開を30秒以内に塞ぐことに成功。
創傷治癒にも貢献し、ほとんど傷あとも残りませんでした。

■サステナブルな生産工程
論文の著者らは「現在の研究で示されたように、SSADの低コスト、環境にやさしい生産、治癒促進能力と生体適合性が、
無縫合での創口閉鎖のための前途有望で実用的な選択肢を提供すると我々は期待しています」と締めくくっています。
「SSADは現在使われている外科用の接着剤に関連するいくつかの限界を克服して、デリケートな内臓器官や組織の傷を治癒するために
使われるようになるかもしれません」とのこと。

この医療用接着剤が外科医と医療関係者に好評となれば、言うまでもなく大量のオオサンショウウオが必要になります。
論文に掲載された統計によれば、中国では現在2000万匹以上のチュウゴクオオサンショウウオが家畜として存在して、
食用や医療用のために養殖されているとのこと。
論文の共著者でハーバード大学医学大学院の科学者Yu Shrike ZhangはNew Scientistの取材に対し、
「動物を殺す必要はなく、粘液を採取するためにごくまれに皮膚を優しくひっかくだけ」だと語り、それは
「とてもサスティナブルで、この接着剤を長期間にわたって得ることができる」と付け加えています。

養殖での個体数は多いものの、野生のチュウゴクオオサンショウウオは近絶滅種にランク付けされています。
その原因は、採掘や木材の伐採などの人間の活動が生息地を奪っているからなんだとか。